西洋中世奇譚集成 皇帝の閑暇


西洋中世奇譚集成 皇帝の閑暇 (講談社学術文庫)

西洋中世奇譚集成 皇帝の閑暇 (講談社学術文庫)


 おととしから続けている古典読み、基本的には読んでなかったけどいつか読もうと思っていた名作古典を読むという取り組みなんですが、年初にあたってちょっと息抜きに、寄り道をしてみました。というわけで、ヨーロッパ中世の、不思議な話ばかり集めた奇譚集。
 まぁですね、もともと私は、妖怪だの怪異譚だの伝説だのの話を集めたり分析したり深読みしたり勘繰ったり、という辺りを興味関心の一番ベースのところに持っている、『宗像教授伝奇考』愛好者ですから。こういう本が面白くないわけがないというか、まぁホームグラウンドに久しぶりに帰って来たようなものです(笑)。実に楽しく読んでおりました。こういう本をずっと延々読んでいたいねw


 細かな発見はたくさんあったわけですけど、ちょうど昨年末読んだばかりの『アエネイス』の作者、ウェルギリウスが中世イタリアでは完全に魔術師扱いになってるのとか、まるで日本の空海行基のように温泉発見伝説が語られてたりとか、「どうしてそうなった」という話がゴロゴロ出てきて、実に面白い(笑)。
 他にも、柳田国男が触れてた「椀貸伝説」と比較できるのでは、と思えるような伝説があったりとか、いろいろ横断的に比較したいと思える話がいくつかあったりして、非常に刺激になりました。もちろん、地理的な隔たりを無視して似てるモノを安易にくっつけたらそれこそ宗像教授になってしまうわけですが(笑)。
 でも、そういう誘惑に心惑ってしまうこと自体が楽しいのだよw


 そういう関心を脇に置いても、純粋にイメージとして心躍る逸話もあったりして、読み物としても非常に楽しい本だと思います。

ペルシャには、セレナイトという、その光沢が月とともに増減する石がございます。

 ……なんて、もうこの一文だけで心躍るよね。これだけでもう、ファンタジーな物語とか作りたくなる。そんなイマジネーションの種としても、とても素敵な内容だったと思います。
 まぁ、時々キリスト教的価値観による説教みたいな内容も挟まるので、そういう関心で読んでる人にとってはところどころ冗長に感じる部分もあるかもですが、差し引いても余りある面白さだと思います。


 そんな感じで、大変楽しい読書でした。
 昨年、『グリム童話集』を読んだのを境に、説話のモチーフを核にして情報をまとめていく勉強法が分かって来たので、こういう原典を読むことの楽しさもだいぶ分かって来ました。なので現在、こういうの読むのが楽しくてしょうがないですねぇ。良い兆候なので、どんどん行きたいと思います。