ユートピア
- 作者: トマス・モア,平井正穂
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1957/10/07
- メディア: 文庫
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有名古典を着々と読み進めております(ペース遅すぎですが
そんなわけで、これも。
とりあえず、学生時代は厭うていた「古いものから順番に読む」というのの有り難さを感じつつの読書でした。プラトン『国家』を読んでおいたのが、この作品の理解にかなりプラスだったのは間違いない。あれが後世に与えた影響って大きかったのだなぁと。
読んでいる間の所感としては、だからプラトン『国家』読んだ時とかなり似ていた感じでした。理想的な国家像を突き詰めていけばいくほど、多様性が失われ管理社会化が進んだディストピア的な国になっていってしまうのだなぁという感慨。
とはいえ、本書はそうしたところを『国家』から引き継ぎつつ、そうした「理想」から微妙に距離をおこうとしているところにクレバーさを感じたところもあって。具体的には、ユートピア国の見聞を話す人物と、書籍全体としての語り手トマス・モアが別人であり、最後にトマス・モアから「ユートピア国のすべてを現在のヨーロッパで実現可能とは思えない」と述べさせたこと。というか、そもそも本書がフィクションとして綴られている事、でしょうか。このわずかな距離の取り方のおかげで、読者私と本書との溝がだいぶ埋まったような感じでした。
『国家』の感想の時にも書いたけれど、一度徹底的に、「理想の国」「理想の全体像」を構想しシミュレートしてみることはすごい重要なんだと思うのです。理想だけが、現実を相対化する。場当たり的に現実の問題に対処しているだけでは、社会全体はどんどんチグハグになってしまう。
しかし理想は、理想であるがゆえに、どんどん先鋭化し暴走してしまう。理想国家は容易くディストピアになってしまう。なので、そこでちょっとだけ最後に「理想」から距離をとっておく、というのは見事な処し方だなぁと思ったわけでした。
いやしかし。こんな極めてポリティカルな内容の本が、がつがつ読まれてたんだとしたら、大したもんだとは思います。個別の政治問題を云々する前に、こういう国全体に対する思考シミュレーションを体験したかどうかって、けっこう大きいのかなという気も。こういうのが日本と西欧の政治感覚の違いとして出るのだとしたら、まぁそりゃかなわんなぁ、みたいな気分にもなったりしたのでした。
まぁそれでも、本書を日本語で読めるというのはだから、ありがたいことなのでしょうね。
とりあえずそんな。