君主論


君主論 (岩波文庫)

君主論 (岩波文庫)


 実は読んでなかったシリーズ。
 もうね、この辺については、本当に俗流マキャベリズム(目的のためには手段を選ぶなっていうアレ)程度の認識しか無かったりするので、ともかく読むだけ読んでみて多少とも認識を更新しようという感じの読書でした。


 一読してみて、なんかこう、こんな清濁併せ呑めと堂々述べてる本も珍しいなと思った事でした。ある意味新鮮。悪い事をしなきゃならんなら決然とやれ、みたいな事を言うもんで、なるほどこの読後感から俗流解釈が出て来るんだなぁ、みたいな納得感もありました。
 とはいえ、マキアヴェッリ自身は、たとえば政敵をまとめて抹殺してしまうようなやり方を「もし実行するならダラダラやらないでまとめて一気にやれ」とか実に丁寧なアドバイスをしてはくれるわけですが(笑)、しかしそのようにして政権を得るようなやり方で成立した君主は、歴史上の偉大な君主とはとても並べることが出来ない、ともきっちり書いているわけで、極力そういう悪事は避けるべきという姿勢は一貫しています。であるならば、やはり「目的の為なら手段を選ぶな」というような乱暴な(善悪判断を最初から捨てているように読める)要約は、誤ってると見るべきなのでしょうね。


 個人的に一番感慨深かったのは、まぁ私は所詮単なる小市民なので、君主目線からモノを考える事なんてほとんど無いわけなので、そういう視点からの権力の力学、みたいなものに少し触れられた気がして、そこがとても面白かったというところです。封建制みたいな、自分の幹部が独自に土地や土地に根付いた民=急時の戦力を持っているような国だと、敵国に内通された時に国が分断されやすい。つまり攻めやすいが守りにくい。一方、官僚制が行き届いた構造の国の場合だと、地方長官と言えども中央から派遣されてるだけで土地の戦力などとは繋がっていないので、もしそいつが裏切っても脅威にはなりにくい、つまり守りやすく攻めにくいのだ、とか。そういう風に考えた事がなかったので、自分の中で今まであまり想定した事の無かった力学がすこしだけ実感できたような、そんな感じでした。


 明確に何か新しい知見を得たという読書ではなかったかもですが、そういう、未知の感触に出会えただけでも実に有意義だったのだろうと思います。やはり読んでみるものですねぇ。