タングステンおじさん


 松岡正剛さんの紹介で気になってた本。息抜きがてら読んでました。
 とにかく素晴らしくて。こんなにワクワクした気分でページをめくったの久しぶり。
 著者の子供時代の回想と、子供時代に出会った化学の紹介とが交互に綴られるという、そんな本です。著者の子供時代の好奇心に寄り添いながら、自然と人類史における化学のクロニクルが頭に入って来る構成になっていて、実に楽しかった。コインやダイヤの指輪などの身近な金属・鉱物から始まって、電磁気学、光学、放射化学くらいまで読者を自然な好奇心で導いてくれるって、これ実はすごいことしてると思う。実際、この本で初めて知った、認識を改めたことがたくさんありました。炎色反応とか、せいぜい花火に使うくらいの認識しか無かったけど、目の前の正体不明の化合物にどんな金属が含まれてるのかの検査にも使えるとか言われて、目から鱗がポロポロ落ちる。なるほどなるほど、と。
 元素周期表なんかも、我々はいきなり学校の授業であれを見せられて「ふーん」と眺めて終わりになりがちなわけですけど、あれに出会う以前にこれだけ散々、自分の手で様々な物質だの金属だの元素だのに触れて親しんでいれば、これほどとんでもない興奮を味わえるわけですよね。本当、化学に対して幸福な出会いをしたんだなーという感じで。その出会いを導いてくれた、著者の近所の「タングステンおじさん」への憧れもまた、読んでみるとひとしおなのでした。一読、「こんなおじさんが、自分の子供時代に近くにいてくれたら」と思う事請け合いです。


 とりあえず、化学への入門に最適な一冊だと思います。気になる方は是非。