ヴィルヘルム・マイスターの修業時代(上・中・下)


ヴィルヘルム・マイスターの修業時代〈上〉 (岩波文庫)

ヴィルヘルム・マイスターの修業時代〈上〉 (岩波文庫)


 集中的にゲーテを読んで来たのもぼちぼち大詰め。というわけで、ビルドゥングスロマンの嚆矢として著名なヴィルヘルム・マイスター。


 学生時代に、いわゆる「教養小説」というのを一つだけ読んだ事がありました。山本有三の『路傍の石』で。しかし、まだあまり読書経験が無かった頃でもあり、ほとんど印象に残ってなかったんですよね。
 ご存知の通り、このブログの管理人は妖怪とか魔術とかの胡散臭い話に興味関心の中心がある人間で、社会における等身大の成長とかいうところにあまり関心を向けていないダメ社会人でありますから、教養小説ってあまり身近に感じたことがなかったのでした。本書もどれくらい楽しめるかなーと思いながら読み始めたのですけれども……。


 とりあえず、難しいこと抜きにして、物語として純粋に楽しかったというのが一つ。登場人物の意外な過去が終盤明らかになったり、謎の秘密結社が登場したり。想像していた以上の波乱万丈ストーリーでした。こんなエンタメ的な楽しみ方のできる作品だと思ってなかったので嬉しい誤算。
 あと、やはりミニヨンには引っかかってしまう私でありました。『ガンダムZZ』でプルに転んだり、『ガンスリンガー・ガール』に転んだりする私にミニヨンが何も引っかからないわけがなかった(笑)。ミニヨンがエッグダンスを見せるシーン、やっぱりああいう不器用でいじらしいのに弱いっぽい。


 で、ビルドゥングスロマン、というヤツについて。
 結局私が、教養小説、人間形成についての小説というのに食指が動かなかったのは、ありていに言ってしまえば「日本社会の中で称揚される完成された人間像、というものにまったく興味が持てなかったから」というどうにもアレな理由であったりもしました。身も蓋もありませんが(笑)。
 そんな私が本書を読んで「なるほど」と思ったのは、『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』においては、「人間形成が完了するまでの話」では無かった事でした。むしろ本書のテーマは、「そもそも人間形成とは何か」という根本への問いです。そして、当初はあまりにも夢想的に「演劇に専心する人間」を「理想の人間形成」だと思っていた主人公が、様々な体験を経て「理想の人間形成像」を様々に変遷させていく、その変遷こそが「人間形成」だという、そういう風に読めたのでした。
 だとすれば……なるほどこれなら分かる、と思えた次第です。初めから「成長した人間の完成像」という所与の正解があってそこに徐々に近づいていく話ではなくて、むしろ「人間の成長とは何なのか」の探求こそが教養小説の主題なのかな、と。
 そのように理解して良いのなら、確かに私の関心にも触れて来るなと。そう思えただけでも本書を読んだことは収穫だったかなと思ったのでした。今後、他の作家のビルドゥングスロマンを読む際にも、だいぶ違った心構えができそう。


 閑話休題
 なにげにゲーテの小説は、俗説や民間信仰に関する知見でも面白い素材がいろいろあって楽しかったりしました。この作品であれば、ドッペルゲンガーとか、あと死んだ人の骨を集めて蘇生させるモチーフが印象的に取り入れられてました。とりあえずメモっておいたり。
 そんな感じで、やはり読んでみるとなんだかんだ発見があるものです。楽しみつつ、では次へ。