ラスト・サムライ(そしてガンダムWのこと)


 先日の日曜日にテレビでやってたので、実家帰ったついでに見てしまいました。
 大作映画で、まあ見ごたえはありました。


 で、まあ、結局明治時代の、サムライと官軍が激突する西南戦争辺りをモティーフにしているわけで、シナリオとしてサムライ側に感情移入して見るようになっているわけです。
 そして確かに、私もそのように見ていたわけです。サムライの親玉、カツモトは凄く魅力的な人物として描かれているし。剣術の研鑽に励んで段々と身につけていく主人公の姿とかも好意的な目で見ていたわけで。


 そうすると、まあ最後でサムライたちは全滅するわけなのですが、そういうシーンに行った時、結局描かれるのは近代戦争に対する嫌悪感なんですよね。
 サムライたちは、剣術のノウハウと日々の研鑽で技能を高めてきた人たちなわけです。そんなサムライたちを最後に全滅に追いやるのはガトリングガンなんですが、これはもう、銃身の脇についてるハンドルをぐるぐる回すだけで弾丸が飛び出るっていうモノなんですね。
 言わば子供にでもできる、そういう動作によって、戦の技能を磨いてきた人たちがあっさり殺されていく。その光景を見て、やっぱり何か嫌なものを見てしまったような気にさせられるわけです。


 そこで咄嗟に思い出したのは、ガンダムWのトレーズ閣下だったんですけど(笑)。
 彼は、戦場で戦う戦士たちの輝き、的なことを言うわけで、そして自動で人を殺していくモビルドールに反対するわけです。
 私はトレーズ閣下の名言の中で一番は間違いなく「礼節を失った戦いは、殺戮しか生まない」っていうセリフだと思ってるんですけど、これはまさしく、近代戦争的な戦争に対する批判なんですよね。
 互いに高めた技術と技術をぶつける戦いと違って、ただハンドルぐるぐる回すだけの戦いには礼節など生まれようもありません。大砲、ミサイル、戦車、手榴弾とかも同様。
 つまりトレーズ閣下っていうのは、そういう思想を持ったキャラクターだったんだな、というのが今ごろ分かったりしたわけなのですが。


 作中、カツモトはいよいよ官軍と戦わざるを得ない状況になったとき、「もうサムライの時代は終わったんだ」と呟きます。それに続いて、
「俺は死ぬなら刀で死にたい。敵の刀か、己の刀か」
 と漏らすのです。
 これに対してアメリカ人の主人公は「ならば敵の刀で死のう」と言ってカツモトを励ますんですが、この返答は明らかに、カツモトの心境が分かっていないものだと思いました。
 彼が本当に言いたかった事は、恐らくこうでしょう――「銃弾では死にたくない」。
 それは上記のようなサムライの立たされた立場を思えば、当たり前の心境なのだと思います。


 そうしてサムライ側に同調して見ていたわけなのですが、けれどこういう話の限界として、結局ラストはあんな感じになるんですよね。
「サムライ側が意地を見せて、せめて官軍側に一矢報いて死んでいきました、おしまい」。
 これって、『0083』でガトーたちが連邦艦隊に突撃して死んで行くシーンとなんら変わらないわけですよ。それで劇的な死を描いて、感動的に盛り上げて終わる。
 けど、そういう終わり方をされてしまうと、現在を生きる我々がじゃあどうしよう、という部分にまったく触れてこないんですよね。「戦いに礼節のあった時代はよかったね、うん、感動した、今は全然違うけど」みたいな。
 最後、天皇がカツモトの刀を受け取って「せめて日本人は日本人である事を忘れてはならない」とか言って終わるんですけど、言うまでもなく、それからちょっとすれば日清戦争日露戦争第一次大戦、シベリア出兵、第二次大戦ってなもんでしょ? 「日本人であること」なんて、ものすごい勢いで忘れちまう事を歴史を知ってる人ならもう分かるわけなので、あんなセリフで締められてもなぁ、っていう心境になってしまいます。
 だから、私にとって『ラストサムライ』は、どうしても「そこ止まりの娯楽映画」だったなぁ、と。


 で、私がガンダムWの『エンドレスワルツ』という作品が好きなのは、こういう結末にしなかった事なんです。
 結局トレーズはテレビ版の最後で、礼節を失った戦いを眺めながらウーフェイの手で死んで行くわけですけど、エンドレスワルツの中で、ウーフェイも同じ板ばさみの中に置かれていたのだと思うのですよ。自身、武芸を身につけていたウーフェイは、トレーズの死をどう消化して良いかわからなかったわけで。
 で、結局は、ウーフェイの乗ったガンダムナタクは地球に降りてからは戦わず、民衆のデモの中にガンダムを立たせてそこに参加しているだけ、なわけですね。
 じゃあデモが有効かって言ったらそれも色々考えなきゃいけないわけだけれども、少なくとも、礼節を失った戦いに身を任せられず死んでいったトレーズと違った答えは出す事ができた。そういう戦いしかなくなった時代に生きるっていう姿勢には持っていけたんだよな、と。
 まあ、最後のテロップによればその後戦争なくなっちゃうんですけど(笑)。


 なんかくだくだ述べてしまいましたが、とにかく、トレーズの提示した問題系っていうのは思ったより深いのかもね、っていう話でした(ぉ