キノの旅11巻
キノの旅〈11〉the Beautiful World (電撃文庫)
- 作者: 時雨沢恵一,黒星紅白
- 出版社/メーカー: メディアワークス
- 発売日: 2007/10
- メディア: 文庫
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気がつけば、このシリーズも11巻目ですか。何気に長い付き合いです。
6巻から9巻くらいまでに比べると、今回は初期の作風に近い印象があって、それがすごく嬉しかったですね。変に凝りすぎてなくて、寓話っぽいテイストが少し強めで。
せっかくなので、各話ごとに軽くコメント。
・口絵「子供の国」
えっと、いきなりで悪いんだけど、何これ?(笑)
・口絵「お花畑の国」
そうそう。こういう、軽い口当たりの黒さと不謹慎さとシニカルさがキノだよね、という感じの話。この話を読んでようやく、「ああ、これから読むのはキノなんだな」という心構えが整いました。つまり、「油断しちゃダメだ」という意味ですが(笑)。
・「つながっている国」
これもいかにもキノらしい、ちょっとぬるい風刺の入った話(笑)。構成は上手いんだけどね。
それにしても、時雨沢氏の2ちゃん意識し過ぎっぷりは異常。間違いなく本スレ見てるし。作中登場するチャット(もしくはスレ/笑)の書き込みの言葉遣いもそこはかとなく某巨大掲示板っぽいしねぇ。
・「失望の国」
これもこのシリーズらしい小品。なんてことはない話だし、別に斬新でもなんでもないんだけど、確かに「そんなもんだよね」と思わせる鋭さは持ってるというか。
・「アジン(略)の国」
師匠エピソードなのにバイオレンスじゃないなんて!(笑)
もう、師匠が出てきたら血の雨が降り注ぐこと確定で、それを楽しみに読んでたのに(ぇ
という感じで、まあこれも意表を突いたって事なのかしら。
とりあえず、冒頭の国名を見て、思わず「お前は筒井康隆か」と突っ込んだのは私だけではあるまい(笑)。
落としどころも良いですね。この人は本当に、「書かない」テクニックが上手い。
・「国境のない国」
ああ、私の祖母の子育て方針と同じ考えの国だなぁ、と思った(ぇ
今回のシズの出番もこれで終了。影薄いぞ。
とりあえずこの話でチェックしておくべきことは、ティーが「み」と鳴くってことだけかな(黙れ
・「学校の国」
さすが師匠、素敵な教育方針です(笑)。
・「道の話」
グローバリズムは世界を滅ぼす、以上(ぇ
まあでも本当に怖いのは、現実の我々の世界では、同じ事を善意と資本主義が押し進めてるって事なんですがね。こんな可愛らしい悪意で進められていたなら、まだ救いもあったのに。
・「戦う人たちの話」
これも、キノならではの話。
キノはヒーローではなく、一介のサバイバリストなのでした。なので、こういう状況に立ち会っても自ずと行動が違ってくる、と。
結局この話を通じて、キノはかすり傷ひとつ負っていないんですね。無論、キノにとってそれが最優先事項だったからです。
けど、赤ん坊を守るために、実は結構リスクを背負い込んでもいる。その境目に、キノという人の行動原理の境目が見えてくる話でした。
「キノさんは優し」くはないけれど、まったくの薄情でもない。
・「写真の国」
その昔、国語の教科書で読んだ話を思い出す。
写真を持っていなければ、出会った風景すべてが一期一会だと思うから、忘れずに覚えておこうとする。けど写真があるという事で、いつでも閲覧可能な形で手元に残しておけるという安心が、出会った風景をすぐ忘れさせる。で、撮った写真って意外になかなか見返すこともない。実はそんな感じで、保存と閲覧が可能な写真が、かえって旅先の風景などとの出会いの感動を薄めているんじゃないか……といった内容。
似ているっていうか、時雨沢先生も同じ話を教科書で読んでて、それを思い出しながらこの話書いたんじゃないかしら(笑)。
……大体感想としては以上。
ここ2作ほどのキノは、初期の淡々とした感じが戻ってきていて楽しいです。今後もこんな感じで、淡々と巻を重ねていったら良いんだと思う。