グラスホッパー

グラスホッパー (角川文庫)

グラスホッパー (角川文庫)


 この本のタイトルを思い出そうとするたびに、脳内に一瞬「バトルホッパー」という単語が思い浮かぶ今日この頃。皆様いかがお過ごしでしょうか。
 信じる奴がジャスティス。今日も元気なzsphereです。


 さて、割と評判の良い伊坂幸太郎氏の本。氏の作品を読むのは初めて。
 とりあえず思ったのは、良い意味で違和感というか、噛み合わない妙な感じのある小説だなぁ、という事。
 私が読んだのは文庫版ですが、その解説に引かれている言葉をそのまま受け入れるなら、これはもともと「タイプの違う殺し屋同士の対決を描く小説」だったそうで。
 けど、出てくるのは、交差点とか駅のホームとかでターゲットの背中を押す「押し屋」と、何だかよく分からん目力(笑)でターゲットを死にたい気分にさせて自殺させちゃう「自殺屋」。もう一人はナイフ使いなわけですが、とにかく何か、対決しようのない殺し技能を持った人たちなんで、「対決ってどうやって?」という感じ。
 著者もその「どうやって?」問題に気付いたらしいんですが、お話はそのまま続行。その結果、ありきたりな筋から離れて、何が起こるか分からない得体の知れないお話になっていきます。
 たぶん、そこが面白いんですよね、この作品(笑)。どのシーンも微妙に、自分の知ってるお話の筋とか空気とちょっと違うんで、その据わりの悪さに引っ張られて「それでどうするんだ?」って感じでぐいぐい読まされてしまう感じ。
 無論、それを作品としてまとめるべく捻じ伏せた筆力も見事だと思います。


 ラストも割りと唐突で、視点人物が三人もいるのに、その誰ともほとんど接触のないところで勝手に事態の大本の部分がばっさり片付けられてしまって、ポカーンとさせられたり。


 最後のシーンも、なんか「どうしてこの場面のここで?」というところで放り出されちゃったような気がしたんですが、あの終わり方は他の読者はどう思ったんだろう。
 時々、「え、そこで切るの?」みたいな終わり方をする小説に出会う事はあるわけですが、今回久々にそんな感じ。
 まあ、たぶん、私の中にまだ、通ってない回路があるんだと思います。ストーリーを、登場人物の心境を突き放して語るスタンスみたいな部分で。ハードボイルドのコードが上手く読み取れないのかも知れないし。
 それが通って、今までよく分からなかった話が楽しめるようになるなら、是非通してみたいんだけどな、とも思ったり。


 ともあれ、歪なところも多々ありますが、その歪さも含めて面白い作品。
 なんかあんまり他の人に薦める文句も思いつかないんですが(笑)。気まぐれに手にとってみたりすると面白いかも?