魔女よ蜜なき天火に眠れ 夜想譚グリモアリス3



 ライトノベルの文法で組まれたミステリー、第三弾。
 以下、ネタバレ注意。

 んー、今回はちょっと出来が粗いという印象を受けました。
 前作、前々作での感想でも述べましたが、基本的にこのシリーズはライトノベル的な「異能バトル」の要素と、ミステリ的な「謎解き」の要素とが微妙な――見ようによっては危うい――バランスで支えあって、一つの作品として成立しています。
 従って、ほんの少しそのバランスが崩れただけでも、途端に作品のあちこちが歪んできてしまいます。


 それはたとえば、主人公にとって最愛であるはずの妹と、さらにアコニットとも同時にはぐれたにも関わらず、長時間それを放置して動じていない様子であったり。
 犯人を特定する際の根拠の弱さだったり。
 主人公が推理を披露する場の減少……というより、全体的にミステリパート自体が少ないといった事態だったり、します。


 まあ前作などもそうした傾向はあったわけですが、特に今回、背後設定を語るために紙面を割いたりしているため、なおのことミステリパートが薄めになっている印象があります。
 むろん、少ないなりのバランス配分で、事件を比較的単純な構造の快楽殺人的なものにして(動機関連で事情が錯綜するのを防いで)ミステリとしての形を保っているのはさすがとも言えるんですが。
 ……ラストシーンのアコニットさんにしても、さすがにあれだけの材料で、特に疑いもせず烙印押しちゃうのはちょっと迂闊でないのかなぁと。せめて犯人がきっちり自白して罪を認めるか、確実なフラグメントを掴むかしてからじゃないと。読んでる私の方がそんな焦りに駆られている始末。


 一方、異能バトルものとしてはどうか、というと。
 こちらもやはり、ミステリパートの謎解きと有機的なつながりがあるから新味として読めるので、単独で、切り離されてしまった場合、出来としては「それなり」という印象がぬぐえません。異能バトル一本でやってる作品に比べて、やはり多少切れ味の面で劣ります。
 そういう意味で、リヤナの追撃を、事件で使われたトリックを見抜き利用して切り抜ける辺りはやっぱり面白かったんですが、最後の締めは、ちょっと個人的に消化不良でした。


 無論、シリーズ化する上で、背後設定を少しずつ語っていく必要に迫られたのは分かるんですけどね。結果として、いろんな要素が一つの作品の中でばらばらに散っちゃってる印象があります。いのりの誘拐、アコニット側の事情、事件そのものの事情など、描かなきゃならない事が多すぎた感がありました。
 ねぇ、何千だかの眷属を抱えていると作中語られる、責任重いアコニットさん、いくら何でもお菓子につられて死地に赴いちゃう形なのはどうなんだろう(笑)。


 というわけで、色々細かいところが気になってしまったのでした。
 まぁ、重箱の隅的な感想であることは承知しているし、面白く読んだ事も確かなんですが……やっぱりミステリというジャンルである以上、一部の読者が重箱の隅を突きたがるのもまた宿命という事で(なんじゃそりゃ
 まぁでも、軋軋君がレギュラーの座を獲得したのは個人的に嬉しかったです。やっぱ良いキャラだ。
 あと中盤わりと沈黙気味だったアコニットさんも、最後の最後で大まくりでした。作品的な歪がいくらあろうと、アコニットさんのキャラ造形だけは常に完璧であります(ぇ


 なんだかんだで、計算高い誓護君とアコニットさんの関係が楽しいので、続きが出たら買うとは思います。
 とはいえ、そろそろ現実の事件の方、推理のパートでもっとあっと言わされるような凄いのが読めたらいいなと思うのですよ。そういう意味でも、頑張って欲しいシリーズであります。