江戸の怪異譚


江戸の怪異譚―地下水脈の系譜

江戸の怪異譚―地下水脈の系譜


 久しぶりに、エキサイティングで楽しい研究書を読みました。楽しかった。


 まあ、仕事として、学問として書いたであろう本に対して、その評価軸が「楽しかったかどうか」っていうのは果たして正しいのかどうか、という気もしますが。
 ま、その辺は在野……っていうのもおこがましいですね、アマチュアの強みってところで。楽しくない学問なんてノーサンキュー、って言えるんですから、良い身分です(ぇ
 それに、結局本当に明晰な学者が書いた研究は、何だかんだで面白いもんですし。


 というわけで、江戸時代の怪異系説話集について分析・評論した本であります。特にこの方のホームグラウンドは仏教系の唱導話材などで、そちら方面からのアプローチで色々と目新しい切り口が浮き上がってきて、なかなか鮮やかでした。
 惜しむらくは、私の方にもっと江戸時代の随筆集や説話集関連の基礎知識があれば、もっと楽しめたのにな、って辺りですが。ま、こればっかりはしょうがない。


 特に、江戸時代後期に流行ったという弁惑もの(狐狸妖怪のしわざと思いきや、実は人間の仕掛けた詐欺行為だった、という筋の話を集めた奇話集)については、ほとんどその内実を知らなかったのでかなり勉強になりました。そうした流れも含め、時代が下るとともに、そういうお化けの話にも科学的な分析の視点が向けられていったらしく。
 井上円了がやっていたような怪異の科学的分析も、明治時代になっていきなり芽生えたんじゃなくて、江戸時代からしっかり萌芽はあったんですねぇ。


 また、この本の中盤では、那須野ヶ原殺生石や、火車などの、妖怪愛好家(笑)にはお馴染みの話題について結構深く言及されてて、その辺も読みどころでした。
 実質、うちのブログで「お勉強」企画を思いついたのも、この辺りが久しぶりにすごく面白く読めたからなわけで。
 うん、やっぱ楽しい。


 そんなわけで、最初から最後まで堪能しました。約6000円ほど出した甲斐もあったってもんです。