東方儚月抄 コミック版第十三話


 今回は、非常に重要な回だったと思います。
 一見、本格的にスペルカードで戦い始めるまでの場つなぎの回に見えますが、よくよく読んでみると、結構重要な話がいくつも出てきている気がします。
 少なくとも私は、今回の話から派生していろいろとここまでの謎に邪推を働かせて一人で興奮してるところです(笑)。
 今回は、そんな邪推を中心に綴っていきます。


 まずは、冒頭での依姫のセリフ。


「……八意様の言っていたとおりね / 増長した幼い妖怪が海に落ちてくると」

 これは明らかに、永琳が綿月姉妹に送った手紙の内容を指していると思われます。
 けどよく考えてみれば、その手紙が二代目レイセンの手に託されたのはコミック版第二話。この時点では、まだわずかに藍が周囲にこっそり協力を募っている程度で、ほとんど誰も動き出していないハズです。
 紅魔館のロケットも、まず間違いなく「飛びようがない」状態でした。
 さて、永琳はこの時点で、紅魔館ロケットが静かの海に落ちる事をなんで予測できたのか……ちょっとその辺が気になったり。


 まあ、ロケットの存在自体は当然永琳は知ってたでしょう。文々。新聞にすっぱ抜かれてたくらいですし(笑)。
 そして、小説版儚月抄第一話のてゐの発言などで、神社で霊夢が神々を呼ぶ修行をしているところまでは把握していた事は考えられます。
 また、「静かの海に落ちる」ことは、東方幻想板の儚月抄スレで指摘がありましたが、多分永琳が羽衣の切れ端をロケットに貼った時に、そのように誘導するよう仕込んだんじゃないかというのが、いかにもらしい感じです。
 とはいえ。コミック版第二話の時点で、永琳たちは恐らく紫が動いているという確証は掴んでいなかったのではないかと思います。そして、紅魔館ロケットは、永夜抄終了後辺りから長らく完成しないままの、半ば以上頓挫した計画でした。
 それが完成すると永琳が言い当てられた理由は……?
 少し気になりますが、一旦保留。


 そして、愛宕様の火を発し咲夜の拘束を振り切る依姫さん。
 愛宕様の火が仏像っぽいシルエットになったりするのも、表現としては結構好き。いいね、なんか能力バトルっぽくなってまいりました(笑)。


 そして、魔理沙がまさかの降参宣言。
 代わりにスペルカード戦を申し出ます。
 エキシビジョンとしてメイド妖精vsウサギのプチ弾幕戦が展開されてましたが。してみると、特に資質や準備道具がなくても、その場の何かだけでスペルカード戦って始められるものなんですかね。お手軽だ(笑)。最低限カードは必要な気がするんですが……まあ、その辺のノウハウは適度に隠しておくのが花ですかね。あんまり厳密に描いちゃって設定矛盾とか出るのもいとにくし。


 そして、こっそり「うちらが全敗したら、おとなしく地上に帰るから」「(依姫が負けたら)そのときは手土産一つでもあればいいや」と、レミリアそっちのけで交渉を進める魔理沙さん。良いなぁ、なんか素敵な交渉っぷりです(笑)。
 まぁ、その辺に落としておきたいよね、魔理沙霊夢にしてみれば。
 そんなわけで依姫vs咲夜の準備が整ったところで、いよいよ次号、乞う御期待ってところなんですが……。


 以下、激しく邪推です。お読みになる際はお気をつけて。



 今回の話で一番重要な情報は、「月の住民はスペルカードルールを知らなかったみたいだ」という事じゃないでしょうか。
 何となく、東方世界ではスペルカードルールは前提みたいなもので、この儚月抄での月側の住人との戦いも、当然スペルカードが最初から浸透しているものと思っていたのですが、どうやら違ったようです。


 なるほど、だとすれば前回、刀の切っ先を向けられた霊夢が平然と座り込んだのも逆に分かります。スペルカードルール下にないなら、つまり迂闊に争えば流血や死亡の危険もあるという事でしょう。そんな状況で、刃物持った相手に対して変に抵抗の素振りを見せたら大変です。つまりあれは、「あんたらと殺し合いする気はない」という意味じゃないかと。


 そして、魔理沙が降参したのも、至極常識的な対応だったと理解できます。
 降参のタイミングが、依姫の挑発にレミリアが反応し、一触即発な状態になった瞬間だったことに注意。
 「祇園様の力」により捕らえられていても、レミリアが本気を出せば破る事はできるかも知れません。他のキャラの言葉を信じるなら実力は依姫の方が上のようですが、少なくともレミリアがまったく太刀打ちできない、歯が立たないという程ではないだろうと思います。
 ただ、そうなると確実に流血沙汰になる。月側もウサギたちに被害が出る事は十分考えられます。
 何より、魔理沙霊夢にしてみれば、そんな危険な状態に付き合って怪我をする筋合いは無いわけで。あそこで降参したのは、そういう意味では賢明な判断でしょう。


 さて、ここから、私の邪推がいきなり飛躍します。


 魔理沙の思考をトレースします。戦って戦えない事はないけど、向こうの方が強そうだし、確実に双方に被害が出て凄惨な結果が出そう。かといって逃げようにも退路が断たれている。仕方が無いから、降参しよう。


 これに似たような話を、つい最近、聞きませんでしたでしょうか。
「退路が断たれたから、降参した」。
 そう、小説版儚月抄での、紫の話と似ているんじゃないでしょうか!!!


 今回の話を、紫の話に重ねて想像してみます。魔理沙たちが月に着いた時点でスペルカードルールを知らなかったなら、当然月の住人たちは「前回の月面戦争」でもそれを知らなかった。否、そもそもスペルカードという制度自体が、第一次月面戦争の時には存在しませんでした。
 月の科学力は非常に高く、その強さも半端じゃないという事ですが、地上の妖怪にもそれなりに力を持った存在いたハズです(紫を筆頭に)。
 そして、スペルカードがなくとも、電撃的に仕掛けて先手を取れば、死傷者をそんなに出さず、月相手に局地的勝利を得る事もできたはずです(咲夜が依姫を羽交い絞めで捕らえられたように)。つまり、正面衝突さえ避ければ、さほど被害を出さずに月に対して勝利を得る事は出来るのではないかと(その目的が何だったのか現時点では分かりませんが)。
 ただしそれは、退路が確保されていればこそです。
 小説版で語られた仕掛けにより退路を断たれてしまえば、次に地上に帰れるのは27日後。どれほど巧妙に潜伏しても、いずれ月側に発見され正面衝突は避けられなくなる。スペルカード戦の存在しない中では、正面からの武力衝突は凄惨な結果に直結するでしょう。
 そしてそうなれば、圧倒的に不利なのは、アウェイで退路を断たれた地上側の妖怪たちです。
 ゆえに紫は、全力を出すわけにもいかず、仕方なく降参した――。



 ……まあ、妄想全開の与太話ではあります。
 ただ、この想像を仮に採用すると、小説儚月抄での紫への疑問が一つ解けるような気もするんですよね。
 月と地球を満月の間だけつなげる、その時間をズラす仕掛けは今もあります。それでは今回も退路を断たれてしまうのではないかと藍は紫に問うていました。紫は何も答えず、しかし何か考えがある様子でした。
 今回のコミック版儚月抄での展開が、その答えなんじゃないでしょうか。


 つまり、紅魔館のロケットを月へ行かせた真の目的は、陽動だけではなく、「スペルカードルール」を月側に浸透させるためだったんだよ!!!


 前回の月面戦争と今回との違い、それは「今ならスペルカードがある」という事です。月側もスペルカード戦を採用してくれれば、紫たちは自他の被害を考える事無く、全力を出す事が出来ます。
 仮に敗北しても、命取られたりせずに済みますし。


 さらにそうだとすれば、永琳たちが紅魔館ロケットの月行きをサポートした理由も分かるような気がします。
 永琳たちは、何者の陰謀かは分からないなりに、月で戦争が起こりそうな事は察していました。その戦争の被害を一番軽くする方法は何か――無論、スペルカードルールを採用する事でしょう。
 どんな状況が起こるにせよ、誰が何を企んでいるにせよ、幻想郷にあるスペルカードを輸出しておく事は月の都のためにもプラスです。
 つまり、暗躍している紫たちとは敵対しつつも、紅魔館のロケットで「スペルカードを月側に持ち込む」という点では、永琳たちも利害は一致していた、と。
 そんな風には考えられないでしょうか。


 東方世界の賢者なら、人的被害は抑えられつつ、全力で戦う事ができ、そしてきっちり勝敗が決まる「スペルカード戦」を知れば、必ず採用する。そういう確信はある程度、紫にも永琳にもあったのではないかと。
 とはいえ。間違いという事も考えられないわけじゃありません。スペルカードがどうこうと説明するより先に、ちょっとしたきっかけで血みどろの争いが発生してしまう可能性も考えられます。
 ロケットで月まで行くメンバーの一人、博麗霊夢は幻想郷の境界を維持するのに不可欠な人です。万が一が起こった場合、危険ではないのでしょうか?


 そう。紫はそう考えたからこそ、幽々子に依頼をしたんじゃないでしょうか!!!


 コミック版儚月抄第四話。藍が幽々子たちに紫の依頼を告げに来た話が回想として語られます。
 事情を把握していない藍の口を介しているので、一見「紅魔館のロケットが飛ばないよう監視してくれ」と依頼してきたように見えますが。
 その実、紫は幽々子に、「月で間違いが起きないよう」監視して欲しいと依頼して来たのではないか……とか。


 あなた方には/吸血鬼たちの監視をしていただきたいのです

 無策では吸血鬼たちに勝ち目はないでしょう/それほど月の民たちは強力なのです

 幽々子様は月面戦争を見たことがあるのですぐに理解するはずと紫様は仰ってましたが

 「月面戦争を見たことがあるのですぐに理解するはず」というのは、「スペルカードの存在しない前回の月面戦争での経緯を知ってるのだから、今回のスペルカード輸出の意図はすぐに理解するはず」だという意味に解してみます(ぇ
 そして、実質月ロケットに同乗し、霊夢たちと月住民との接触に間違いがないよう「監視してくれ」という依頼だったという風に読めないかなぁと。


 これに幽々子

 ふふん 紫は念を入れすぎよ/幾ら地上に月の民(スパイ)がいるからって


 と述懐しています。
 ここで月の民の名前が出るのは……無論これは永琳たちを指しているのだと思いますが。
 思うに、永琳が月側に連絡を取り、「スペルカードルールは採用するな、無視せよ」と知らせたとしたら、それで少なくとも紫の思惑を壊すことは出来る形なので。万が一そのような指示が出ていた場合に霊夢たちに怪我等の間違いがないよう手を打ってる、という感じなのかも知れません。
 しかし、永琳も月側の被害を考えればそのような指示は出さないだろうと幽々子は踏んだ……といったところでしょうか?


 うーん。やはり邪推の域を出ませんが。いろいろ予測としてもちぐはぐな感じではあります。
 しかし、ともかく「紅魔館ロケットで霊夢たちを月に送り込んだのはスペルカード輸出のため」説というのは、一応ここに予想として立ててみた、という事で。
 もし、片鱗だけでも当たっていたら、手拍子喝采ってところですw


 ともあれ。とにもかくにも、次回のスペルカード戦描写に期待です。