機動戦士ガンダムUC(ユニコーン) 5巻
機動戦士ガンダムUC (5) ラプラスの亡霊 (角川コミックス・エース (KCA189-6))
- 作者: 福井晴敏,矢立肇,富野由悠季
- 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
- 発売日: 2008/07/26
- メディア: コミック
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地球連邦政府の元首相官邸跡「ラプラス」の捜査から、ガンダム名物大気圏突入戦闘までを描く第5巻。
全体の展開はまずまず面白かったですよ。こういう、複数の勢力・複数の関係者の思惑が交差するドラマ部分は福井氏の十八番だろうし、またガンダム的でもあって。
また、地球の重力に引かれながら戦闘するという、非常に難解な描写をかなり上手くまとめてると思います。加速をやめると地球に落下しちゃうとか、軌道を修正して目標に接近するのが大変だとか。その辺を無理なく描けてたのはお見事かなと。
また、オットーやダグザなど、この作品では「大人」に分類される人たちがそれぞれの立場で頑張ってるのも良いです。特にダグザの終盤での奮闘はなかなか。
総じて、ここまでの巻に比べて、描写過多とかそういうのをあまり感じませんでした。福井氏は、状況がこんがらがってる方が筆が乗る人なのかもw
と、全体としては楽しめたのですが、どうも、主人公バナージ・リンクスの位置づけというか、その周辺にだけは不満が残ります。
「M.S.Classify」のルロイさんが以前ブログで、バナージがいわゆる「不殺」的行動に出る事に対する違和感を書いてらっしゃいましたが、
http://vsbrf91.blog6.fc2.com/blog-entry-1032.html
確かにSEED的な人道主義でされてるわけではないんで、そことは分けるべきなんでしょうが。
しかしすでに5冊分の分量を消化しようというこの段階になって、こんな不殺的行動が出てきてしまうのは、結局バナージがまだ宇宙世紀ガンダムのイニシエーションを済ませてないからなんですよね。
つまり、「パイロットは、死んだ!?」(シーブック)というあれです。単なる民間の少年だった主人公が初めて戦場で人を殺しておののく、という段階。
バナージも結果的に戦闘で死者を出してるんですが、彼の場合状況的に「NT-Dのせい」に出来るんですよね。悪いのはNT-Dとそれによって引き出される自分の凶暴な衝動であって、俺自身はイノセント(潔白)だ、って思える状態なんです。
けど、宇宙世紀ガンダムを正面からやるなら、主人公はどうしようもなく自分の責任で敵兵を殺してしまって、その後ろめたさと呵責に苛まれて、それでも状況のために戦い続ける――という形に本来なるハズで。
そして、そこに苛立って「無駄な殺生をまたさせる!」「前に出なければやられなかったのに!」(カミーユ)といったセリフを吐きながら、それでも一兵士の身でどうにか状況と向き合おうとする、というのが言わばガンダムのセオリーでした。
ロランでさえ、月面でマヒローを撃破する形で、このイニシエーションを終えています。
アムロなんかランバ・ラル隊が陸戦を仕掛けてきた時には、生身で銃をとって敵兵を撃ってますし。
もちろん、そこに確固としてアンチテーゼを立てたいというなら、それはそれで納得できるんですが、そういう風にも読めないしなぁ……。
上記のような主人公のやり場のない怒りが、ガンダムを戦場のドラマにしていたんで、やっぱりここは食い足りなく感じてしまう部分になっています。
……というか、それだけでなく、バナージは主人公として、ここまでほとんど何も自力で勝ち取ってない気がするんですよねぇ。
ユニコーンのパイロットの座に収まれてるのは「父親のカーディアスがそう設定したから」であって、自分の能力で「ガンダムのパイロット」の座を勝ち取ったわけじゃないし。
仲間が助けてくれるのも、乗ってる機体が「ラプラスの箱」奪取のために必要な重要なカギだからであって、バナージ自身が築き上げた人間関係のため、というほどでもないし。
敵機を圧倒できる強さも、NT-Dのお陰であってバナージ自身の腕ではない。
その辺も弱いと感じてしまう部分なんですよね。主人公だったら、せめて主人公機の座くらいは自分の力で勝ち取ってくれよ、と。
コウ・ウラキはモンシアと直接対決してガンダムパイロットの座を守り抜きました。
福井氏が好きらしい初代ガンダムでも、アムロはガンダムパイロットの座を下ろされると聞いて、ガンダムごと持ち出して抗議するという意地は見せました。「ボクがガンダムを一番うまく使えるんだ!」
別に、ニュータイプだからとか、コーディネイターにしかいじれないOSに組み替えたからとか、そんな反則気味な理由でも良いんです(笑)。とにかく、主人公自身の能力でガンダムのパイロットにならなきゃさぁ、という気はするんですよね。
上記ルロイさんの感想でもありましたが、そういう意味では、自らオードリーのために母艦を抜け出すというアクションをしたリディ・マーセナスの方がよほど主人公らしいというのも頷ける部分でした。
あと、オッサンたちの方がカッコいい(笑)。
そんなわけで。まあ6巻も読みますが、その辺の消化不良っぽい部分を今後どう料理していくかですね。このまま、宇宙世紀ガンダムのイニシエーションなしで最後までいっちゃうのかなぁ……。