続・日本の歴史をよみなおす


日本の歴史をよみなおす (全) (ちくま学芸文庫)

日本の歴史をよみなおす (全) (ちくま学芸文庫)


 アマゾンの画像は正編・続編が1冊にまとまったものですが、私が今回読んだのは続のみ。正編読んだのは相当大昔。


 というわけで、まあ網野善彦氏が比較的平易に説く日本史の本。ただし、中身は従来の歴史観に対するけっこう強烈なカウンターパンチです。
 ……もちろん、これが執筆された時点の「歴史観」に対するカウンターなので、今読むにはまた注意が少し必要でしょうが。
 どんなかというと、この『続』でのテーマは一貫していて、まとめれば「百姓というのは農業従事者だけを指した言葉ではないし、また日本史においては農業だけでなく商工業も考えられている以上に重要な位置を占めていた」、というものです。
 たとえば、自分の田畑を持っていない農民、という意味でとらえられがちな「水呑み百姓」として政府に分類されていた家が、実は田畑を持っていないだけで自分の船を5隻も持っており、商業流通によってかなりな財を蓄えていた、というような事例を氏はいくつか挙げるのでした。水呑百姓だから貧しい家だったのだ、という認識は誤りであると。


 その全体の主張は、まあ頷けたんですけどね。
 氏はその後、石器時代までさかのぼって、この視点から日本史を一通りたどって見せます。日本史は農業だけが重要だったんじゃないよという視点のもとで。
 しかしこの本、そんなに分厚い本じゃありません。内容も平易な範囲に抑えようとしている面もあるのでしょうが、氏が論述したい内容に対して、例示や説得力が不足しているような印象を受けました。ちょっと強引な感じがあるというか。
 まぁもちろん、著者は日本歴史学のビッグネームですし、この本で語られた事の背後には膨大な事例と検証があるのだろうと、そう予測はできますが。
 それでも、本といのはその1冊で一応は閉じているものです。個人的に、1冊の本の中で、論述したい内容と、そのために提示される事例・分析とが釣り合っていない場合、信用しないというのが私の基本スタンスなので。この本全体について、私は5割引きくらいで読んだというところです。
 ちゃんと提示する枠の範囲内で結論出してくれないとさ。


 もちろん、個々の指摘などでエキサイティングな、面白い部分は多々ありました。商業・流通を軸に日本史を考えるというのも、視点としてはなかなか楽しいですしね。
 平安時代の荘園なんかも、単に米のとれる土地だけじゃなくて、海運を押さえられる場所を競って自分の荘園に組み入れようとしてたりとか。
 あと、飢饉は農村よりもむしろ都市で起こるものだ、というのも言われてみれば「なるほど」という感じでした。とりあえず凶作と言えど目の前に田んぼ畑や山河海がある村々より、それらを流通によって入手するしかない都市の方が、いざ飢饉になった時に困るわけですね。……まあ食料自給率の低い今の日本と同じって話ですか。


 私の友人なんかは、網野氏の著作について「中心と周縁理論の構図一辺倒じゃん」と斬って捨ててたりするんですが、でまあ私自身読んでて、その辺が気になりはするんですが。それでも細部が面白ければそれなりに楽しめるお気楽ぶりがアマチュア読書の良いところです(ぇ
 そんなこんなで、ちょっとしばらく歴史関連の読書が続くかも。