中国史


中国史 (世界各国史)

中国史 (世界各国史)


 もともと、中国の古文献とか、伝説や志怪小説なんかはけっこう好きで。諸子百家の思想なんかもわりと面白く読んだりしていました。
 一方で、特に最近ネット上では、中国に対してあまり好意的な見解を耳にしません。また私自身、近代化以降の中国にはそんなに思い入れもなく。
 その両者の断絶を思った時に、やっぱり一度通史としての中国史は勉強しておかないとなぁ、という気はずっとしていました。今回、一念発起して積ん読状態だったこの本に手をつけてみた。


 とりあえず古代から清朝までの通史は、まあ普通に。ていうか、好きだとか言う割に、未だに春秋戦国時代五胡十六国時代とが「あれ、どっちが先だっけ?」程度の浅い認識なわけで、とにかくこの辺は真摯に勉強、という感じ。
 やっぱりこう、意識して押さえていかないと、どうしても歯抜けになってしまうんですよね。隋や唐代の事は比較的知ってるけど、宋代のことは良くわからん、とか。こういうウィークポイントは、やっぱり意識的に潰していくしかないんだなぁ。若干ヘヴィーですが、まあしょうがない。


 面白かったのは、元朝に関する辺りですね。ここも知識として弱いところで、モンゴル人たちが作った王朝だってことと、日本に攻めてきたってこと、くらいしか下手すると知らなかったりするわけです。あとはもう、チンギス・ハーン源義経説とか(笑)。
 なので、元朝の成立までにモンゴル内部で結構ゴタゴタがあったとか、それでフビライさんが内部対立の中で頑張ってたんだっていうのも初めて知ったんで、結構面白かったり。
 あと、まあ遊牧民族って夏と冬で場所を移動するわけですが、元の王朝でも、国家元首のカーンが夏と冬で大都と上都を行ったり来たりしてたというのが個人的に面白かったです。変なことするなぁ(笑)。河童みたいだ。


 他にも、明代の倭寇に関する話とかもですね。中国側の視点から見るとそうだったのか、という感じです。中国の文献にある倭寇の図が載ってたんですが、清々しいくらいの野蛮人っぷりに噴きました(笑)。



 で、問題の近代以降の中国のこと。
 とりあえず清代末期あたりからそうなんですが……これはもうどこの国の歴史読んでてもそうなんだけど、帝国主義時代の事を読んでると本当に胸糞悪くてしょうがない。率直に頭に来ます。
 アヘン戦争なんかもそうで、イギリス議会でも「アヘン貿易のために行うなんて恥ずべき戦争だ」って意見も出てたらしいんですけど、結局決行される。それだけならともかく、それから数年後の第二次アヘン戦争だったかな、の講和条約の条項に「アヘン貿易を公認すること」ってのがちゃっかり入ってるんですよ。アヘンについて「恥ずべき」って認識もちゃんとあるハズなのに、平然とそんな条件呑ませちゃう辺りがねぇ、信じられん。
 結局何に引っかかってるのかというと、その前の時代までの戦争に比べて、強烈に「ビジネスのための戦争」なのが、私の場合すごく頭にくるのでした。


 結局中国は、近代化に若干立ち遅れたわけなんですが……多分それに関して一番不幸だったのは、日本の大正時代にあたる時代を、ほとんど持てないまま二次大戦の時代に突入しちゃったことなのかなぁ、という気がします。急激に流れ込んできた西洋文化、西洋文明の慣らし期間みたいな時期がほとんどないままだった事が。
 そういう時間をもう少し長く持てていれば、その後の歴史も少しは違ったんだろうけどなぁ。


 その後の歴史については、うーん、ちょっとやはりピンと来なかったというのが正直なところ。特に中華人民共和国の建国以降がどうにも。なんだろなぁ、革命とかやっぱりよう分からん。大学構内にゲバ棒持ち込んでた時代の人たちはまだ分かったのかも知れないですが。
 ただまぁ、文化大革命の辺りの記述を読みながら感じたんですが、国の全体を、随分とまあ簡単に、粘土細工のあっちとこっちを付け替えるみたいに入れ替えられると思ったものだなぁ、という。国民の性質とか、国内の産業構造とかも、トップダウンでいくらでも造り替えられるんだという過信を感じてしまいます。
 私はほら、複雑系の信望者なので、そういうのはやっぱりある程度、ボトムアップ式に、それぞれの地域や人たちの細かな動きの総体として出来上がってくるもので、政府はそこに調整を入れる事はできるだろうけど、根本的な部分まで自由にコントロールできるとはあまり思ってないのでありまして。蝶の一羽ばたきで嵐が起きるかもしれないような、そんな不安定なものを早々コントロールできるものやら。いや、コントロールできると思ってるんでしょうけど、北京オリンピックの際にミサイルで降雨をコントロールしてた人たちですから。


 もちろん、こういうのは本一冊だけで判断するのは危険です。いくつかの視点で相対化しておかないとイカンのであんまり短絡にモノを言うべきでもないんですが……。
 なんだかなぁ。知識人は全員農村に送って、労働の中で再教育すべきとか、まあ意向は分からなくもないけど、やること乱暴だよねぇ(笑)。