乱れからくり


乱れからくり (創元推理文庫)

乱れからくり (創元推理文庫)


 結構前に、著者の泡坂妻夫氏の訃報を聞いて以来、いつか読もうと思っていたのでした。たまたま気が向いたので手に取り。
 ミステリー小説久々だったので、何か懐かしい気持ちとともに読み終えました。
 あ、一応以下、ネタばれ注意。




 結論から言うと、読後感としてはイマイチだったんですけどね。
 作中、古今東西のからくり玩具に対する蘊蓄がふんだんに散りばめられていて、高校大学時代の私ならそういう情報過多(一種のペダンティズム?)を楽しめたかも知れないけれども、結局ストーリーの流れにあまり上手く馴染んでいないのが気になってしまって、いまいち入り込めなかった面があります。


 また、そうしたウンチク部分に妙に見知った情報が多いと思ったら、巻末の参考資料に挙げられてる本のうちの一冊を、つい半年前にたまたま読んでいたのでした。おかげで作中でキーになる大野弁吉という人物などに関する知識も多少あったわけですが……これも結果的に著者の手の内がある程度分かった状態で読み進む事になったわけで、こういうのもミステリーの読み手としては若干不幸だったかもしれない。


 そういう点を除いても、謎ときの部分で香尾里のダイイングメッセージは即座に分かったし、迷路も図が示されてから間もなく、作中記述との矛盾から仕掛けがある事にはすぐ気付いたし。
 ミステリー小説って、謎とき小説のように言われてるから、解答編前にトリックが分かった方が楽しいかと思いきや、実は全然見当もつかないまま作品に翻弄されて、最後に探偵役の解決を読んで「やられた!」と思うくらいの方が確実に面白いのですよね。
 結局その辺のことも含め、この作品との巡り合わせはあまり良くなかったようです。


 まぁ真犯人は分からなかったし、そこには意外性も感じたのですが。
 めくるめく読書体験というわけにはいかなかったですね。ちょっと残念。


 それにしても、結局冒頭の隕石落下による最初の死というのはトリックがあったりするわけではないんで、まぁそんな天文現象ではさすがにトリックも何もないわけですが、拍子ぬけする部分はあり。
 しかし著者の方が手品師であってみれば、この冒頭の隕石はいわばミスディレクションなんですね。手品の種を仕込む片手から意識をそらせるために、わざともう片方の手で大仰な身振りをして観客の注意をそちらへ向ける。この辺のコントロールはさすが堂に行ったものだと思ったりしました。


 そんな感じで、上手くかみ合えば楽しめるかも知れない感触はありましたので、気が向いたら同じ著者の別な作品を手に取る可能性もある、かも。