東京スタディーズ


東京スタディーズ

東京スタディーズ


 たまたま見つけて、面白そうだったので読んでみた東京本。
 建築関連の人から、社会学者、映像評論、文学評論などなど、とにかくいろいろな方向から東京について論じた文章を集めてあって、なかなか面白い構成でした。多角的に様々な視点をもらえたのが、非常に刺激的な感じ。


 知識的な部分で言うと、行政区としては「上野・浅草」「亀戸・錦糸町」がお台場などの臨海副都心と同じ「副都心」扱いなのだとか、聖蹟桜ヶ丘の「聖蹟」は明治天皇の事蹟の事なのだとか、いろいろと面白い情報がありました。が、それにとどまらない、バラエティ豊かな視座を得られた事の方が重要でした。
 たとえば、お台場のヴィーナスフォートのように、建物の内側に擬似的な街を作ってしまう事で居心地の良い消費の空間を作り上げてしまい、そのお陰で建物の外の都市部分が“余白化”してしまう、とか。
 また、ポーランド人の社会学者の人が書いた文もありますが、その人が驚くのは、電車の駅と街(デパートなど)が境目が曖昧なまま連結されてしまっているような空間だったり。
 郊外の住宅の庭にやたらと白雪姫の小人や動物の人形が置かれたり、クリスマスにやたら派手なイルミネーションを自宅に飾りつけたりする背景事情について解説されていたりするのも、面白かったですし。


 また、複数の違うスタンスの書き手から、同じキーワードが出てくる事でその重要性を認識したりとか。
 一番大きいのはどうやら80年代の渋谷パルコのようで。そこまで詳しく把握したわけではないけど、商品や宣伝を都市空間に載せていくというような事を初めてやった、というような事なのかな。とりあえず一つのエポックではあったらしい。
 相変わらず戦後の歴史についてはからっきしなので説明が要領を得ませんが(笑)、でもちょっと注意すべき話題として覚えた。(こうやって、あんまり分かってなくてもとりあえず自分の中の知識にアンカー打っておけば、次に何かで読んで出てきた時に接続できるからね)


 他にも書ききれないくらい色々と面白い記事がありまして、なかなか興味深く読みました。
 個人的に一番印象に残ったのは、小さなコラムで触れられていた日本橋直上の首都高速の話かな。
 東京オリンピックで空港と首都圏をつなぐために首都高速を作る事になって、けれど時間が限られた工事で土地を買収している余裕もなく、仕方ないから川沿いに力技でどーんと通してしまった。そのために、かつて江戸五街道の拠点だった日本橋(橋自体は明治時代のもの)の真上を高架道路が思いっきり覆い尽くすという状態になってしまったと。
 これについて、景観を損なうから道路を他に移そうという話はずっと出ていたそうなのですが、逆に海外の人たちの目には、この暴力的(?)なランドスケープがなんだか珍しい、すごいものに映っていたようで、映画『惑星ソラリス』で未来都市のイメージに使われたり、ヴィム・ヴェンダース『東京画』に映されたりしたのだそうです。
 確かに、無理やり街中を縫って這い進むような首都高速の情景って、東京の景観を特徴づけてる要員の一つだと思うし、先日の「東京彷徨」赤坂の回で写真に撮ったように、その力技っぷりが妙な景色を作ってて面白かったりもする。東京のイメージを形作る存在の一つとして興味深いのかもなぁ、と思ったりしています。


 そんなわけで、次に東京彷徨をやる時は、日本橋の件の情景を確認してから、もしかしたら首都高速の真下をずっと歩いてみたりするかも知れません(笑)。



 とりあえず、この本でまた色々とインスピレーションやモチベーションをもらったので、冬になる前にまた何回か東京彷徨をやってみるつもりなのでした。