異都発掘 新東京物語


異都発掘 新東京物語 (集英社文庫)

異都発掘 新東京物語 (集英社文庫)


 この本買ったのいつくらいだろう。高校時代とかじゃないかしら。
 荒俣宏の本を読み漁ってた頃に買ったのですが、そのままずっと積まれていました。それはある意味幸いなことで、当時読んでもそこまでの感興はなかったと思います。「東京彷徨」を始めて、東京の歴史や構造に興味を持った今読んだからこそ、これほど面白かったと感じられたのでしょう。
 いわば、私が内容を楽しめるだけの素養を持つまで、本棚でずっと待っていてくれた、そんな一冊。



 とにかく荒俣センセは変な事をたくさん知ってて、まっとうな歴史書とかを読んでるだけじゃ絶対出会えないようなエピソードを次々教えてくれるのですよ。
 たとえば大正時代の成金の青年で、山本唯三郎という人は朝鮮に「加藤清正以来の虎征討」を敢行して、総勢150人にのぼる「山本征虎軍」を組織して朝鮮に渡ったとか。そして多量の土産を携えて凱旋、帝国ホテルに渋沢栄一らを招いて「虎肉試食会」を開いたらしい。
 なんか、どこから突っ込んでいいのか……。とりあえず清正は虎退治のために朝鮮行ったんじゃねぇよ、という(笑)。


 また、ドイツの地政学者カール・ハウスホッファーという人は明治末期に日本に来た軍人で、日本についてくわしい研究をした人だそうですが、その後ミュンヘン大学の教授になり、ヒトラーとも知り合い、ドイツ敗戦後は日本の古式にのっとり割腹自殺したとか。
 ハラキリをしたドイツ人なんていたんですねぇ。
 こういう変な話は、ネット時代の今こそすごく面白い話題の素材になると思うんですけどね。誰か荒俣宏twitterでも始めさせてみたりしないかしら(ぇ



 さて、東京についての記述ですが、これも非常に面白い内容でした。そこらの東京ガイドや東京論の本ではお目にかかれないだろう、珍しい話題が多く。
 ……ていうか、まあ半分くらいは荒俣宏の妄想の詰め合わせなんですが(笑)。初っ端から東京に残る、高射砲やトーチカなどを紹介し、これらが蘇って現代に牙を剥いたらどうなるかというシミュレーションを読まされます(笑)。まぁ面白いんですが。


 また、なにげに新宿の東京都庁のコンペにおいて、各設計事務所が提出した「新都庁のデザイン案」がカラーで掲載されているのも面白く。文庫本でこれを収録してるのって珍しいんじゃないかしら。


 そして、明治時代の幻の東京改造計画についても、今まで読んだ本の中では一番深く触れていました。
 東京の官庁街を西欧風のデザインにしようと、明治政府がドイツ人のウィルヘルム・ベックマンとヘルマン・エンデの二人に計画を発注します。
 そこで作られた計画というのが、凱旋門を中心とした円形の道路と、そこから放射状に延びる道、そして官公庁の建物は煉瓦製の建築に和風の屋根を乗っけた和洋折衷建築。そういうのを東京に作ってしまおうと。そんな壮大な計画が持ち上がったのだそうです。
 もし実現していれば、現在の東京はものすごい奇怪な街になっていたハズですが(笑)、実際にはこれは政府が計画の規模縮小を求め、またベックマン、エンデ側にもミスがあったために成就しなかったのだそうです。
 唯一、法務省(当時は司法省)他いくつかの建物がその計画に沿って建てられたそうですが。


 他にも、先日読んだ『東京の空間人類学』で同潤会アパートというのを初めて知りましたが、そっちの本には同潤会というのがどういう組織だったのかについては何も書かれてませんでした。で、荒俣先生に教わった形。
 関東大震災の復興のために、住宅難を救う目的で作られた組織だったんですね。設立には各国からの(震災への)義捐金も使われたとかで。へぇー。



 ともあれ、そんな感じで押さえるところは押さえつつ、押さえなくてもいいところまで押さえて回るのが荒俣氏。実は神田明神の地下には地下空間があったとか、目を疑う話がわんさか出てきて、まるでおもちゃ箱のようでした。
 正露丸って、元々は日露戦争の時の商品で、意味も“ロシアを征する”「征露丸」だったんですね。あのラッパのマークも進軍ラッパだそうですよ。さすがトリビアに出演してるだけあって、出てくるムダ知識も堂々たるものです(笑)。へぇーへぇーへぇー。


 そんな感じで。久しぶりに荒俣センセの本を読んだら、なんかやたら楽しくて参りました。余裕があったら久しぶりにまた色々読んでみようかなぁ。