月世界へ行く


月世界へ行く (新装版) (創元SF文庫)

月世界へ行く (新装版) (創元SF文庫)


 松岡正剛『ルナティックス』にちらっと出てきた挿話で興味が惹かれて、買ってみた本。
 SF小説の元祖と言ってしまって良いのかな、日本がようやく明治維新を迎えた頃に書かれたジュール・ヴェルヌの作品。


 これが、なかなか面白かったのでした。
 もちろん、現在の科学知識に照らしてみれば、変なところはいろいろあったりもするわけです。宇宙空間で、特に宇宙服とかもつけずに、砲弾(ロケットではない)の外部との扉を開いてゴミとか捨てたりしてるし(笑)。
 他にもエーテルの話が出てきたりして、まぁ科学的な事実誤認は私程度の素養の人間にも散見されます。けどね、だから楽しめないと言う事はない。というか、そういう風に読むべきではないのでしょうね。こういうのは、同時代人の目線で読んだ方が面白いのだし。


 何より、作中人物の魅力が読んでいて嬉しかったところでした。特にミシェル・アルダン氏がもう、可愛すぎる(笑)。実質、この人物がいたから作中の月旅行も上手くいったのだろうし、また読者にとってもこの人がいるから楽しんで読めているところ。
 全体的に憎めなくて、明るい雰囲気が作品全体に漂っているのが印象的でした。なるほど、科学がバラ色だった頃だったんだな、という空気感があり、その辺も楽しみどころなのかも。


 最後のオチもひたすら愉快でした。科学も、なんでもそうですけど、ハンドメイドな感触が残っている時が一番楽しい。月へ行く大砲にしても、月旅行そのものも、そして勇敢な月旅行者を救助する過程まで、全体にどこかハンドメイドな感触があって。そういう幸福な空気感が良かったです。


 ともあれ、とても楽しみました。これはお勧めかも。