江戸時代の科学技術



 滋賀県への旅行で見つけた本。
 国友一貫斎(藤兵衛)という、近江国の鉄砲鍛冶なんですが、種々の発明をしたり、また反射望遠鏡を制作して天体観測をしたりしていたという事で、長浜城歴史博物館で展示品を見て俄然興味を持った次第です。
 で、同博物館の物販コーナーで購入。


 以前から、江戸時代の時点で意外に西洋の科学技術の知識が日本に入って来ていたらしいという情報は散発的に目にしていたわけで、ずっと気になっていたわけです。当時の江戸時代の知識人たちは、コペルニクスガリレオニュートンも、ちゃんと知ってたらしい。
 日本が明治時代に、急激に欧米化を成し遂げられたのも、江戸時代の内にこうした「仕込み」が各分野に為されていたからなんだろうなと、ぼんやりとながら思っていたわけで。
 そういう関心圏に、この国友一貫斎という人物がいきなり飛び込んできたのでした。



 反射望遠鏡というのは、通常のレンズを使用した望遠鏡と違い、筒の底面にパラボラ形の鏡を仕込んで像を反射、さらにそれをもう一度反射させて一点に像を集め、それを目で見るという仕組み(詳しくはグーグル先生に聞くようにw)。この鏡を作るには当然、かなり高度な技術力が必要になるわけで。
 さらに、こうした望遠鏡を使い、日本人で初めて太陽黒点の連続観測をしたりもしていたそうです。江戸時代で唯一、土星の衛星タイタンを観測していた、とも。
 また、これに先立って『空気の発見』を読んでいたので、一貫斎が気砲(要するにエアガン)制作のため空気を圧縮する実験をしていて、恐らく日本人で初めて「空気に重さがある」事を認識した人だったのではないかという話にもなかなか興を感じたりしました。日本にも凄い人がいたんじゃん、という感じ。


 カラー図版で、一貫斎の月面のスケッチなんかもじっくり見る事が出来て、なかなか楽しい読書だったわけですが。
 それでもこの本の三分の二くらいを読んだ辺りでは、まだ「日本人にも科学精神に溢れた人がいたのだな」くらいの関心だったわけなのですが。最後の方で、さらにとんでもない方面に話がリンクして、衝撃を受ける事に。
 この国友一貫斎が平田篤胤と交流があって。しかも、一貫斎が篤胤に師事したのが、江戸の天狗小僧寅吉とほぼ同時期だった可能性があり。
 さらに、寅吉について記された、妖怪方面ではつとに有名な『仙境異聞』に、一貫斎が国友能当の名で登場しているという(笑)。
 さらに、一貫斎は寅吉の師匠の天狗である杉山僧正の肖像画を買い求めてたり、さらに一貫斎文書の中には「仙界武器ノ図」なんていう、寅吉から聞いたらしい武器の見取り図みたいなのもあるらしい。
 というわけで、私の調べ物の一番のメインである、伝奇妖怪関係の関心においても一気にVIPの一人になってしまったのでした(笑)。



 今まで、天狗小僧寅吉の名前はよく目にしていたのですが、どういう関心でアプローチして良いのかよく掴めていませんでした。一個人の経験や見解に過ぎないわけで、妖怪に関する伝承そのものとはやはりある程度分けて捉えるべきなのでしょうし。
 しかし、この本を読むにつれ、全然別方面から好奇心の芽がむくむく育ってきた感じです。
 一貫斎が描いた「仙界武器ノ図」などには、矢の中にさらに小さい矢が仕込まれた二重矢など、技術者で発明家の一貫斎を刺激したであろう「技術」「発想」が看取されます。また、この本でいくつか引用された寅吉と篤胤門下の人々のやり取りを見ても、単に「天狗に連れられて」的な話だけでなく、彼らの自然科学的な関心を刺激する内容が多かったようにも見受けられ。
 いかにも胡散臭い「天狗小僧」の登場が、実は江戸の知識人たちの自然科学への関心を喚起したり、江戸の技術史や技術発想に影響を与えていたのかも知れない。しかしだとすれば、寅吉って何者なのか……? それを連れまわした天狗、杉山僧正は?
 何だか、新しい関心の種を得られたような気がします。


 ともあれ、非常に刺激的な読書体験で、大変満足しました。
 ここ最近は全然別方面の本を中心に読むつもりで、江戸時代は予定になかったのですが、ちょっと脇道にそれるかも。
 ていうか実際、寄り道的に本を買って読んでしまったわけで……↓