機動戦士ガンダムSEED STARGAZER


機動戦士ガンダムSEED C.E.73-STARGAZER- [DVD]

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 Gジェネ予習ってことで、今まで見てなかったものを一気に色々見ています。その一貫。


 実はSEEDもちゃんと見てないのですが、テレビシリーズを追いかけ直すにはそれなりに腹を決めないといけないので、先に1時間くらいで見られるこちらを見てみたのでした。


 一見して思ったことは、人間に対する不信にべったりと塗り固められた作品だな、という事でした。


 冒頭、ユニウスセブンの崩壊と地球落下によって発生した災害から始まって、まずその被災の描写からして、今となっては冷静に見るのがけっこうツライ映像なのですが。そこで避難所にさらにMSがミサイルぶち込みに来ると。
 ストライクノワールパイロットのスウェンも、ブルーコスモスの「コーディネーター憎し」の洗脳教育をバリバリに受けた人で、それと戦ってるのもナチュラルに憎悪一辺倒のテロ組織に描かれてたり。
 後半もDSSDの研究所の職員が、ファントムペインの攻撃ですごい勢いで虐殺される描写があって、その辺すごく徹底しているなという感じでした。ダークサイドオブガンダムSEED、みたいな。


 この過剰なくらいの描写を見ながら、これも今という時代の表現なのかな、とぼんやり考えていました。これはSTARGAZERというこの外伝作品ばかりでなく、SEED本編もそうだったんじゃないかなと。


 ガンダムSEED放映当時、砂漠の虎アンドリュー・バルトフェルドが主人公キラに問いかけるシーンがありました。戦争はどうすれば終わるのか、互いに最後の一人まで殲滅するまで終わらないのかね、と。
 当時の視聴者の誰かが、これを見て鼻で笑った評価を私はたまたま目にして覚えています。戦争っていったら殲滅戦だと思ってるのか、普通は降伏文書に調印した時が終わりだ、と(後で調べてみたら、この指摘はちゆ12歳のガンダムSEED紹介記事である事が判明w)。
 なるほど、と当時は納得して読んでいて、ガンダムSEEDの戦争描写にリアリティがないのだと思っていたのですが……その後、現実世界の動向を見て、どうだったでしょう?
 イラク戦争を始めた米軍は、誰にも降伏文書を書かせられないまま、イラクからいつまでたっても撤退できず膨大な戦費に難渋しました。
 エルサレムを巡る報復合戦も、私が子供の頃からやってますが未だに終わる気配がありません。
 いかにも戦争音痴な脚本家によるセリフに思われた、「どうやったら戦争は終わるんだろうねぇ?」という問いは、意外にも現代の世界情勢にとってアクチュアルな問いだったのではないか、と。


 互いの経済発展のための、植民地の奪い合いによる戦争ならば「降伏文書を書かせて終わり」で済んだでしょうが、宗教問題や民族問題に根差した、憎悪が駆動する戦争は「どうやって終わらせるのか」がそう簡単ではない。ガンダムSEEDでも、ガンダムUCの第四話でも、この「憎悪が駆動する戦争」をどうするかというのが重い問題として登場してきたのは(それに対して作中示されたアンサーがどうだったかは別として)やはり時代の空気をすくい上げた、重要な流れだったのではないかと思うわけです。


 正直なところ、この「STARGAZER」という作品はそんなに出来のいい作品ではない。脚本が駆け足過ぎですし、キャラクターを掘り下げている余裕もなく、ロボットものとしても登場機体の見せ場が少なくて、エンタテインメントとして評価するなら点数は辛くならざるを得ない出来だと思います。
 ただ、この徹底した「戦争が泥沼化していく描写」への諦めというか、人間への強烈な不信感だけがものすごく印象に残ります。
 ガンダムSEED本編やDESTINYは、どちらかというとメロドラマ展開の風味が濃くてあまり気になりませんが、コズミックイラを舞台にした作品をその世界観からきちんと評価するためには、この「STARGAZER」という作品は外せないのだろうと思ったりしました。これを見てから、SEED本編を見るとかなり印象変わるんじゃないかと思います。
「核ミサイルは持ってて嬉しいコレクションじゃない」というセリフは、決して小物の悪党のバカっぽさとして用意されたセリフじゃないかも知れないという事です。本気で撃ちかねないのだという、作品の底流に流れる人間不信をそこに読むべきなのかも知れないな、という事なのでした。



 ……で。
 そうしたどん底に暗い作品世界の中、無人惑星探査用MSのスターゲイザーだけが孤立したように静謐で、存在感を放っていました。
 ストライクノワールですら大してメカアクション的に見せ場が無い中、スターゲイザーだけはその性能の特異さをよく表現されてました。人工知能を積んでる事も含めて、この機体のその後だけは見てみたいなと思わせてくれました。
 まぁ、それももう少し尺をとって欲しかったな、という感じではありましたが。


 そんなところで。
 作品の完成度だけで評価すればそんなに高評価はつけにくいですが、SEED系の作品世界を見直す契機としては悪くないかなと思います。
 Gジェネの予習がてら一回見る、くらいなら悪くないかと。