オセロー


オセロー (新潮文庫)

オセロー (新潮文庫)


 引き続きシェイクスピア
 どうも巻末の解説などを読むと、演劇界隈では「悲劇」というのの定義がまた色々あって、むしろ『オセロー』はそういう意味での「悲劇」という視点で見ると他のシェイクスピア四大悲劇の中でも「悲劇」の原義から遠いようなのですが、一方、現代において一般的に使われてる意味の「悲劇」に一番近いのはむしろこの『オセロー』だよな、と思ったりしました。
 要するに話の規模が小さくて、他のシェイクスピア悲劇が国家単位の命運にかかわってるのに対して、この『オセロー』は家庭内の悲劇に過ぎないって話なのですが、まぁ現代人にとっては逆にその方がピンとくるよな、という感じ。私も、これまで読んだ『マクベス』や『ハムレット』よりも身近な実感を持って読み進めましたし、けっこう感情移入もしながら読んでいました。


 まぁ、やっぱりイアーゴーですよね。
 話の終盤近くまで、積極的に事態を作り出しているのはもっぱらこの人物で。解題では「狂言回し」などと書かれていましたが、あまりに過小評価でしょう。事実上、ほとんど登場人物の動きを差配して、事態を思惑通りに運んだイアーゴーはこの物語の中心人物です。
 しかし、一方で解題の人が言うとおり、イアーゴーは主人公ではない、のでしょうね。最終的に彼が無様に目論見を暴露されて捕まるからで、しかも彼は捕まって以降は役目を心得ているとばかりに押し黙ってしまう。
 実は私はけっこうイアーゴーに共感というか同調しながらこの話を読み進めていて、いつの間にかこの話は最後、イアーゴーがオセローに勝利宣言をして悠々と勝ち逃げしていくのかな、とか勝手に思っていたくらいで(笑)。もしその通りになってたらそれこそイアーゴーが主人公だったんでしょうが、しかし彼は最後にフェードアウトするんですね。
 そして多弁で行動的なイアーゴーが最後に黙して去っていくからこそ、後に残ったオセローの取り返しのつかない悲劇がそこで一気に浮上して迫ってくる、という構成なわけで、これはやっぱりさすがによく考えられてるな、と感心した次第でありました。


 やっぱ、名作は名作と呼ばれるだけの理由があるんだな、と月並みな感想なわけですが。個人的に、嫉妬心にしても何にしても、私の普段の関心圏にある主題からは遠いのですが、それでもぐいぐい読まされてしまったわけで。これも、もっと若いころに読んでればなぁw
 ま、言ってもしょうがないので、引き続きどんどん名作読みキャンペーンを進めて行こうと思います。