七人の侍



 見てなかった定番作品を見ようキャンペーン中につき。なんとなく邦画が見たい気分だったので黒澤明いってみました。


 黒澤作品はなぜか『椿三十郎』だけ見てるんですよね、たしか。大昔にたまたまテレビでやってたんだったと思います。
 そんな感じで、ほとんど前情報無しで見たので、まずこれが3時間30分以上の大作だという事も知らずに見始めた次第。しかしこれだけの長尺をまったく飽きさせない内容で、非常に楽しく見終えました。


 とにかく冒頭から、最初の侍が見つかるまでの、野武士に襲われた農村のどん底ぶりが極まっていて、見てて一体どうしたものかと戸惑ったくらいで(笑)。とにかく華やかなものが一つも出てこないという。
 それが、徐々に侍が集まってきて、という辺りからはもう、ほんのわずかの退屈もない見事な展開で、コメディなところからシリアスなシーンまで、映画の楽しさと凄みをこれでもかと見せられて、降参するしかないような心境に。
 三船敏郎演じる菊千代が本当に良い味出してて、いっぺんで好きになりました。人懐こくてひょうきんで、それでいて農民側の視点からの言い分をぶちまけたりもして。
 また彼に限らず、白米以外に何の報酬も出ない物好きな戦いに集まってくる侍たちが、みんなどことなく悪戯好きで愛嬌があって憎めない人ばっかりなのが、また何とも言えず。それでいて、締める所は締めるのもたまらないわけで。


 また、全体的な演出も渋くて渋くて、またそれが良くて。重要人物である侍七人にしても、倒れる時はあっさりと倒されて、それっきりだったり。種子島で撃たれるにしても、それを撃つ側や銃口などを映さず銃声だけとか。また野武士もその多くが、とどめをさすのは農民たちの竹やりで、爽快なアクションからは一見遠いのだけれど、そういう抑制がリアリズムになってるんですね。で、それほど土臭く泥臭いのに、エンタメとしての爽快感も損なってない。むしろ、そういう中だからこそ、夜闇に飛び出していく久蔵が無事帰って来たり、また勘兵衛の弓矢のシーンなんかでは印象が強まるというか。
 そういう画面作りも含めて、なるほどこりゃすごいなぁと、ただただ感嘆するしかないという。


 ラストも渋いですよね。野武士が撃退されて、平和な田植えの情景を前に、今度は侍たちが疎外されてしまうという。シンプルなハッピーエンドにならないあの空気感は、独特の余韻を見た後に残してくれました。なんだろう、農村に幻想を抱いて出向いたけど結局疎外されてしまった都会人、みたいなあの空気感……(笑)。
 まぁ野暮な事を言うなら、あれが「守るための武力」って事なんだろうな、という話でもありますが。有事の際には必要だけど、平時には疎外されるしかないという。
 しかしこんなこと、わざわざ言い立てるよりも、あの映像を直接見るに如くはないわけで。その辺はだから、あまりシャチホコばって述べ立てるつもりもないのでした。とにかく、そういう余韻まで含めて、さすがだなと唸るばかり。


 いやいや、このレベルの名作見ると、お腹いっぱいすぎてしばらく他の事したくなくなるのだなぁとか、そんな感じでした。これが映画か……。


 いずれにせよ、まだ見ていないものは沢山あるので、引き続き名作映画を見るキャンペーンも続けるつもりですが、しばらく黒澤作品は控えるかも……また少し間を空けてにしたいと思います。