姿三四郎


姿三四郎 [DVD]

姿三四郎 [DVD]


 黒澤作品をそろそろまた見よう、と思ってツタヤの棚に立ち、さてどれを見ようかと悩むものの、結局「いいや、もう初監督作品から見て行け」と思って借りてみた姿三四郎


 この作品は公開が戦時中で、「国策のため」大幅なカットが入っており、復元が難しかったためそのまま収録されているという状態とのこと。特に、慢心した三四郎を師匠が諭す、その説諭の言葉がごっそり抜け落ちてたりとか、けっこうクリティカルな所が抜けていて、あぁ当時は大変だったんやなぁと思ったり思わなかったり。しかしアクションシーンはきっちり入ってるので、楽しむ分には特に問題なく楽しめました。


 普段見ているアクションものって、拳で殴り合うか、剣で斬り合うか、はたまた銃で撃ちあうかといったものが多く、その点で柔道柔術によるアクションというのはなかなか珍しく、なかなか新鮮なところはありました。最初は半信半疑だったけど、見てみるとこれはこれで面白い。
 直接の動き自体は地味でも、見せ方が巧みなんですね、おそらく。



 無論のこと、これが公開された当時は私は生まれてもおらず、またこの時代の作品を見る事も稀なわけですが、なぜか懐かしいような気分になったのは、多分この時代のエンタメの感覚が、現代の最前線の作品の土台の土台、深層部分に今でも流れてるからなのだろうな、と思ったりもして。
 主人公像とかも、そうだ昔はこういうキャラがヒーローだったんだよな、という妙に腑に落ちる感覚があったりしました。強いんだけど、未熟なんですよね。その未熟さが愛されてこそのヒーローだったんだ、という感覚が印象に残りました。結局主人公の姿三四郎は最後に強敵を打ち破って、その末に旅に出るのだけど、その後で師匠たちは「あいつは今でもまだ未熟のままだ」っていうような内容の事を話している。多分、その成熟に届かないで迷っているっていう段階が、この時代のヒーローの一つの形だったんだろうな、と。
 私の知ってる範囲だと、ジャッキー・チェンの初期のカンフー映画の主人公がよく似てるんですけれど。強いんだけど、その強さをどうするのかという精神面では修行中、っていう。元々、アジアの娯楽作品の問題意識の一つはずっとそこにあったんだなと思ったりして。


 なんだかんだで、得る物の多い視聴だったと思います。
 またいずれ、黒澤作品も引き続き見ようかと。