バルカン超特急



 ヒッチコック作品。まだアメリカに渡る前の時期に作られたもの、というところで。


 開始からけっこう長い時間、本題に入らずに、電車が足止めされた混乱に見舞われる宿の様子とかがのんびり流れてたりして、全体的にわりとのんびりというか、スチャラカな空気感で話が進むのですが。退屈しそうなところ、細かなコメディ調の芝居を挟んで退屈させない展開になってて、そんなに気にならず。
 で、メインの「消えた老婦人」の謎が提示されてからは、さすがに引き込まれる見事な脚本でありました。


 うーん、やっぱ時代背景ですよねえ。この映画の公開が1938年、折しもナチス・ドイツポーランドに侵攻を開始した年という事で。全体的にのんびりと、のんきなキャラクターがあちこちに出て来ていながら、作品の背後にはそういう時代の空気がしっかり据えられていて、謎の解明から後半のアクション展開に流れていくという。正直、意外なくらいシリアスな話になっていって、その落差に振り回されたような視聴感覚でした。


 しかし、なんだかんだで最後のオチは良かったです。後味悪くないのは見事。
 あと、裏で暗躍してる連中がいるんだけど、「老婦人消失の謎」は単にそういう暗躍してる連中の奸計だけによって成立してるだけじゃなくて、浮気の発覚を避けたい人たちとか、単に面倒だったりしてる人たちというような偶発的な成り行きも謎の発生に関わってたりして、その辺がご愛嬌というか、面白いところでした。


 あと、『サイコ』にしてもこれにしても、心理学や精神医学的な要素がけっこう前面に出てて、時代だなぁ、と思うなど。多分もっと明確に論じた人がいるんだろうけれど、ミステリー、推理といった作品形態って、心理学的な関心と近しい所にあるんでしょうね。そんな連関についてぼんやり考えたりしていました。


 で、なんだかんだで、引き続きヒッチコック作品を見てしまうわけですが。