ダイヤルMを廻せ


ダイヤルMを廻せ [DVD]

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 引き続きヒッチコック。特に戦略や目的があってみる物を選んでるわけではなく、相変わらずのインスピレーションと行き当たりばったりであります。


 で、この作品、とくに何の前情報も予備知識もなく見たわけですが、結果としてここ数作見た中で一番楽しみました。というのも、今作が非常に良い出来の倒叙ミステリだったので。
 小生、大学時代にミステリ研究サークルの末席にいたりしまして、また学生時代には刑事コロンボの小説版を全作読破したり、というような経緯もあり。特にコロンボが好きだったので、倒叙ミステリは大好物なのであります。


 なんというか、本当に巧緻なミステリだけが備えている質感っていうのがあるわけですよ。劇中のあらゆるセリフ、あらゆる小道具、あらゆる登場人物の行動にまで神経が行きわたっていて、ストーリーに寄与していて、曖昧な意図や無駄な演出が一つもない。他のジャンルの話だったら不自然極まりないそういう劇構成が、ミステリでだけは美点になる。まるで超一流の職人がものした工芸品みたいな、そういう完成度の作品っていうのがあり得て、そういうのに触れた時の、ミステリジャンルならではの快感ってのがあるわけです。
 ミステリからは長らく離れていたので、そういう感触は久しぶりだったのですけれども。うん、これはやっぱり良いものだ。
 と同時に、ミステリ作品に触れて「推理」をするなんて実に久しぶりで、なんか最近使ってなかった筋肉を久しぶりに使って筋肉痛、みたいな状態になりましたが(笑)。


 あと、当時の撮影スタッフや関係者へのインタビューみたいなのが特典として見られるんですけど、そこで指摘されてるのを聞いて、ようやくこの作品がほとんど同じ部屋の中だけを舞台にした密室劇だという事に気づきました。一部屋外を映したり、別な場所のシーンがちょっとだけ入りますが、場面の9割以上が主人公の家の中。
 まったく気づかなかったという事は、それだけ視聴者に閉塞感を感じさせないくらい映像作りが上手いのでしょう。そういうところも含めて、よくできてる作品だよな、と。


 ともかく、純粋に楽しい視聴体験でした。これは他の作品も是非見てみたいところです。また少し間を空けて……。