北北西に進路を取れ


北北西に進路を取れ 特別版 [DVD]

北北西に進路を取れ 特別版 [DVD]


 本来、私の場合は特定の作者・ジャンルを続けて見たり読んだりせずに、あちこちフラフラと渡り歩くのが性分なのですけれども。
 思い返すに、そんな感じでやってると大抵、歯抜けのままいつしか気合が殺がれて、中途半端に終わる事が多かったりするわけで。せっかく基本を押さえる気になったのですから、極力歯抜けにならないようにしようということで、選択の幅をあまり広げ過ぎないようにしました。
 というわけで、ヒッチコックをまずは優先的に見ていこう、という次第。


 本作は大変楽しい、アクション、サスペンス、スペクタクル、ロマンスと娯楽映画の要素がたっぷり詰まった作品で、頭から尻尾まで、実にリラックスして楽しんで見たのでした。序盤のコミカルさから、徐々に切迫の度を高めていく話運びも絶妙だし、疑心暗鬼を盛り上げる間の取り方、見せ方もさすがに素晴らしいし。
 なんでこんなに落ち着いた気分で見られたかと言うと、私が子供の頃から見ていた同時代の、いわゆる「ハリウッド映画」イメージに近かったからでしょうね。ここまで何本かクラシックな映画を見て来て、やはりアメリカで作られた映画が多かったのですが、私の中のハリウッドイメージからは意外にもかなり遠くて、なるほどこういう時代があったのかと納得しつつ、しかし「私の知っているハリウッド映画」に至るまでにどのような変遷をたどったのかがイマイチ見えませんでした。この『北北西に進路を取れ』は、ちょうどその間隙を埋めてくれた感じです。サスペンスあり、ロマンスあり、アクションあり、陰謀あり、そして爆発がある(笑)。
 それでいて、名作映画という貫録もしっかり感じられたりして。特に構図とか、間の取り方とか本当に上手くて、実に良い。待ち合わせ場所に指定された、荒地のど真ん中にあるバス停で、相手を待つシーンとか。関係ない車が3台くらい通り過ぎるという観客に対するフェイントが、心憎いくらい上手いわけです。あー、今、私、ヒッチコック監督の手の上で踊らされてるなぁ、という感じ(笑)。


 そしてシナリオ。上記の通り、全盛期のハリウッドアクション映画のセオリーがほぼ詰まってる感じなので、特に難しい事考えずに、頭カラッポにして見られるのが魅力だと思うのですが、特に感じたのが、「マクガフィン」というやつ。
 古典映画を見始めてから、視聴終了後にその作品のウィキペディア記事を見る習慣が出来たのですが、そこでこの言葉を知りました。ヒッチコック監督の作劇術として有名だそうで、たとえばスパイもの映画であったら「書類」であるとか、泥棒ものであればダイヤであるとか、物語の軸になり登場人物たちの動機付けになるアイテムで、その中身自体はどうでもいいモノの事を言うのだそうです。国家の存亡を左右する機密書類だ、と言って出て来るけど、具体的にその中身が何なのかは、別にくどくど説明する必要はないというわけです。むしろそういう中身を変に作り込んでしまうと、観客の興味がそちらに引かれてしまって、肝心なサスペンスシーン、映画のハラハラドキドキに集中してくれない、と。
 この映画だと、終盤に出てくるマイクロフィルムとかそうだよなぁ、と視聴終了後に思い至って、つい噴き出してしまいました。よくよく思い返してみれば、あのマイクロフィルムの中身が何なのか、何が取りあいするほど重要なのか、一言も説明が無かったな、とw
 しかしですね、見ている間はそんなこと、全然気にならないのです。なのでやっぱり、これは観客としてまったくお手上げ、見ている私はヒッチコック監督の手の中なのでした。


 うん、やっぱり大したもんです。ヒッチコック作品見るの楽しいなぁ。