キングコング


キング・コング [DVD]

キング・コング [DVD]


 一度は見ようと思っていた、モンスターパニック映画の古典。一部の有名なシーンは目にしたことがあるものの、通しで見たのは初めて。


 正直なところ、序盤はけっこう退屈でした。以前、ネット上の感想で「前半が拷問に近いほど退屈」と言われていた『惑星ソラリス』もそんなに退屈を感じなかったのですが、今回はどうしたわけか。話の展開を知っているかいないか、の違いだったんでしょうかね。
 それでも気になる所はいくつかあって、とりあえずは1カットだけ映るニューヨークの摩天楼でしょうか。この映画の公開が1933年、という事は映された映像はそれより前のニューヨークの町並みなのでしょうが……日本がまだ太平洋戦争に向かいつつあったくらいの時期に、あんな摩天楼をもう持っていたのかと思うと、ため息が出るような気分。


 真打のキングコングが画面に登場してからは、一転してずっとエキサイトしたまま見続けていました。素朴に、映像としてすごかった。
 基本的にはクレイアニメに、加えてキングコングの顔部分の実物大模型で撮ったようですけれども、特に模型の迫真ぶりが素晴らしい(笑)。あれだけでも一見の価値ありです。
 今日の技術ならCGでよりリアルにするところでしょうが、ならばこのキングコングが見劣りするかと言うと、全然そんな事ないのですよね。むしろ、クレイアニメであるがゆえの異様さが、そのままキングコングという存在の異様さになっています。これは以前見た初代ゴジラとかもそうですけれども、表現上のぎこちなさが、その存在の異様さとしてかえって迫力になるという事が、特撮の世界にはあるんですよね。今回見たキングコングの映像は、正にそんな感じ。
 主人公たちが乗り込んだ島にはなぜか恐竜の類いもわんさかいまして(笑)、キングコングティラノサウルスが戦うシーンがあるのですけれど、これがもうとにかく素晴らしかったです。まさか、キングコング一本背負いかますシーンが見られるとは!w
 もちろん、終盤のクライマックスシーン、有名なエンパイアステートビルによじ登ってのアクションも見ものだったのですが、個人的にはティラノサウルスとの格闘戦を押したいですね。私の映画歴の中でも五指に入るくらいのベストバウトでした。大興奮しながら見てました(笑)。


 人間とクレイアニメが同じ画面に出てくるシーンも、よく工夫されていて、あまり違和感を感じさせませんでした。
 とにかく何よりも、純粋に映像で楽しめたわけで。映像加工の技術が発展した現在の視点で見ても楽しめるんだから、嬉しいじゃないですか。
 あと、キングコングがヒロインに対してメチャクチャ紳士的なのも良いんですよ。ヒロインが別な生き物に襲われると颯爽と駆けつけて戦うし。初登場時、拘束されてるヒロインをどうやって連れ出すのかと思ったら、指先で器用に縄をといて優しく連れて行く展開に感動してみたり(笑)。なんかもう、後半はどちらかというとキングコングに感情移入しながら見ていましたw



 ストーリーについては、見ている私の側の素養不足で、うまくコメントできないところが多く。
 たとえば、主人公たちがキングコングのいる孤島へ向かう船に、小さいサルが乗ってるんですよ。これって確か、私が子供の頃に見た海洋冒険もので出て来た船とかでも見たモチーフで、この『キングコング』にもそうした作品からの想像力が流れ込んできてるのかな、と思ったりはするのですが、じゃあなんでサルが乗ってるのかというのが分からないので、なんとも。
 また、キングコングというモンスターもまた、現地の孤島で畏怖され、生贄的なものを捧げられていた存在だった事が描かれています。『ゴジラ』の感想で書いたように、実はゴジラも元々は孤島の古老によって語られていた土俗的な怪物の名前で、しかも人身御供をとっていたという語りが序盤に為されており、特撮が生んだ初期のモンスターや怪獣が、こういう出自を持っているというのもかなり気になるポイントでした。そのようなモンスターや怪獣たちが、都会に進出する事で、やがて垢抜けた銀幕スター的な存在になっていくのですけれども……どうなんですかね、その辺。色々考えていったら面白いのかもしれませんが。以前書いた、ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』がトランシルバニアからロンドンへ出向いていく展開とかとも合わせて考えていいのかも。
 無論の事、こうした南島の原住民的な人々を、訪れたアメリカ人の目で描き出していくというのは、ポストコロニアルとかその辺からの批判が当然可能なのだろうとも思うのですが、私は現状その辺に詳しくないので、パス。


 むしろ、この作品が、映画撮影に赴いてそこでキングコングに遭遇するという、映画内映画、自己言及的な要素をチラつかせているのが気になったり。これは多分、クレイアニメなどの特撮技術によって存在しない怪物=キングコングを存在するかのように描くという、他の映画よりもより虚構性の高い作品であるという意識と、不可分なところから出て来た発想だと思うのです。
 そんな感じで、実はシナリオの構造を分析してみるとけっこう面白い作品なのかも、という感想を持ちましたが、私の素養が足りないので、いずれ、って感じです。
 まぁでも、こういう小難しい話無しに、単純にキングコングの縦横無尽な活躍を見て楽しめば十分面白い作品だと思います。