パイドロス


パイドロス (岩波文庫)

パイドロス (岩波文庫)


 引き続きプラトン
 こちらは先の『ゴルギアス』とはうって変わって、ソクラテスと親しいらしいパイドロスとの穏やかな会話が中心。直近で読んでた『ゴルギアス』のギスギスした空気にかなり疲れていたんで、けっこう癒されました(笑)。
 とはいえ、問題はこの「親しい」の内実で……『饗宴』で語られてた内容の通り、美少年を愛でるのがデフォである古代ギリシャのこと、どうもソクラテスパイドロスの関係が友人の域にとどまっているように見えない(笑)。川辺の木陰で、冗談言ったりちょっとふざけたりしながら延々イチャコラし始めて、なんだこれ、と思いながら読んでましたw 圧倒的BL空間。


 パイドロスは真理の探究を喜ぶ好青年といった趣きで感じはいいのですが、ソクラテスの向こうを張って論戦をするというよりは単にその話を聞いてひたすら感心するばかりという感じで、従って本書後半の対話篇形式の部分はいささか緊張感を欠き、議論が興味深い展開をしたという感じはありませんでした。
 むしろ面白かったのはこの本の中盤あたりまで。ソクラテスがまるでニンフによる神がかりにでもあったかのように、人間の魂に関する神話的な物語と、それに続いて恋(エロース)に対する賛歌を滔々と語る場面でした。ソクラテスってこういう語り方も出来るんだ、という意外性もありましたが、そこで語られているのが事実上、プラトン哲学の代表的要素として教科書にも載っている例の「イデア」である事を思うと、余計に興味深く。
 つまり、イデアというのがギリシャ神話的宇宙観、なかんずくその輪廻転生の部分との関わりで述べられているというのが、意外でもあり、また面白くもあったわけでした。その魂がことさら輪廻の過程で人間に生まれ変わったのは、かつて天上のイデアをその魂が見ていたからであって、だから人間には他の動物には無い知恵が備わっているのだ、という話になっているわけで。
 こうなってくると、私などはもう、哲学よりも神話学とか民俗学とかの関心の方がむくむくと頭をもたげて来てしまいます(笑)。そういう関心でプラトンを読んでみるという方法もアリかなぁとか。


 個人的に、この『パイドロス』はひたすらソクラテスの異例の演説の方に興味が魅かれた次第。
 果たして、自分がプラトンの良い読者なのかどうか疑問が湧いてきますが……w まあ自分なりに読んでみる自由があるのもアマチュア読書の良いところ、ということで。