ヒッポリュトス


ヒッポリュトス―パイドラーの恋 (岩波文庫 赤 106-1)

ヒッポリュトス―パイドラーの恋 (岩波文庫 赤 106-1)


 引き続きギリシャ悲劇。
 こちらは、ミノタウロス退治で有名なテーセウスの先妻の子と、その継母が起こす悲劇を描いた話。


 久しぶりに、オリュンポスの神々のやりたい放題ぶりを拝見して、うわぁ……ってなった読後感でした(笑)。神々様方の気まぐれ一つで、人間の人生なんかあっという間に吹っ飛ぶという。あぁなんて儚いことw
 まぁ、解説を読む限り、ホメロスでは盛んに描かれていた、そういう形で感情的に人間に介入しまくる神々の様子というのは、ギリシャ悲劇が作られた時代にはかなり控えめになっていたようで、そういう意味ではこの『ヒッポリュトス』における神々の描かれ方は珍しい部類のようですが。逆に数か月ぶりに『イリアス』あたりの神様たちのノリが思い出されて、なんかちょっと懐かしい気分でもありました(笑)。


 アプロディテによって芽生えた道ならぬ恋と、どうあがいても絶望な展開しか待っていないヒッポリュトスの境遇と。なんというか。悲劇なんですから結末がひどい事になるのは分かっているわけですが、それにしてもひどい話だったw


 個人的な関心としては、この話の最後に登場する女神アルテミスの、その登場と役回りがいわゆる「デウス・エクス・マキーナ」だという事で、初めて具体的にその内実を知った事がけっこう面白かったりしました。また、それをどういう文脈でアリストテレスホラーティウスが批判したのかも、こうして実作を並行して読んでみると分かりやすい。
 あと、劇中、テーセウスの呪いの言葉を受けてポセイドンが波間から巨大な牛を登場させ、ヒッポリュトスに襲い掛からせるという展開があって、そこもけっこう印象に残りました。元々、ミノタウロスが生まれる原因となった逸話が、ミノス王がポセイドンに祈って犠牲にするための牛を請い、ポセイドンが素晴らしい牛をミノス王に贈って、けれどその見事さから別な牛を犠牲に供えて神の怒りを買った……というのが端緒だそうですが。合わせて考えると、ここでまた牛が登場する意味とかも深読みしたくなるわけです。まぁ、ギリシャ悲劇は神話伝説そのものではなく、作者の創作も入っているでしょうから、その辺は勘案しないといけませんが。
 まぁでも、ちょっと面白かったり。


 そんな感じで。この調子でまだギリシャ悲劇を読み続けることになりそうです。いつになったらギリシャから抜け出せるのやら……。