詩学・詩論


アリストテレース詩学/ホラーティウス詩論 (岩波文庫)

アリストテレース詩学/ホラーティウス詩論 (岩波文庫)


 岩波文庫で読めるプラトン作品をとりあえず駆け足で読み終えて、ついにアリストテレスに手を伸ばしたワタクシ。とりあえず比較的入りやすい所から、ということで『詩学』。短いためか、ホラーティウスの『詩論』とセットで1冊です。


 とりあえずホメロスと、あとソポクレス『オイディプス王』は読んであるので、それで予備知識としては大体準備OKかなと大まかに考えてたんですが、それ以外にもこの当時の演劇用語その他が大量に出てくるため、やはり読むにあたってはそれなりに苦戦させられました。まぁ、この本の厚さの半分くらいは注釈なので、そちらと並行して読む手間さえ惜しまなければ、読めない事も無いくらいだったのですが。


 一方の内容についてですが、実はこの『詩学』、読み始めるまでは、もっと文芸評論的なものかと思っていたのですけれども……実際に読んでみたら、明らかにこれから劇の脚本を読む人を対象とした創作ハウツー本ですね、これ。
 古代ギリシャでは、大ディオニュソス祭りにて、悲劇作品のコンテストが行われていたそうで、おそらくそうした場所で評価されるために詩作に励む人たちが大勢いたのでしょう。現代の目で見ても、わりと実践的なアドバイスがあちこちに見られて、なかなか面白い読書でした。
 特に後半、「作品についてこう批判されたらこう答えろ!」っていうQ&Aコーナーみたいなのがあって、その中身と、アリストテレス先生の熱の入れ方から察するに、作品の細かいところにツッコミを入れる事に熱中する(最近で言えばアニメ版艦これの加賀さんの弓の構え方を叩きまくってた弓道部員さんたちみたいな)方々が古代ギリシャにもいたのだな、という事が何となく伝わってきて、苦笑を禁じ得ませんでした(笑)。
 他にも、登場人物にはその設定にあった話し方やセリフを言わせないとだめだよ、とか、全般的に創作アドバイスとして肯ける内容が多かったです。


 同時収録されてるホラーティウスの『詩論』も、さらに実践的な創作ノウハウ。文章もそんなに難解なところは無いし、本の厚さのわりに本文自体はそんなに長くないし(長いのは注釈と解説)、古典とかなんだとか関係なく、アマチュア小説書き向けの創作の心得ハウツー本として読んでも十分役に立つレベルだと思います。


 なんかこう、言ってみればこの辺りが西洋の文芸批評の萌芽だったんだろうと思うのですが、それが作品を作る側に寄り添った内容だったという辺りに、ちょっと感慨深いものが無いでもない、という感じです。


 その他、ギリシャ悲劇がどんな劇だったのか、という辺りでも、色々と面白い記述があってわりと楽しみました。やはり戯曲そのものを読んでるだけでは分からない事が多々ありますので。仮面を使ったらしいとか、想像してなかったからかなりびっくりした記述の一つ。
 その辺りも含め、なかなか示唆の多い読書でした。いやいや、アリストテレスなんて、名前のイメージからかなり難解なものを想像していたのですが、意外に読みやすくて助かります。これなら、もう少し頑張って読めそう。引き続きいろいろ手に取ってみたいと思います。