アガメムノーン


アガメムノーン (岩波文庫)

アガメムノーン (岩波文庫)


 ギリシア悲劇もなんだかんだ読み進めております。今回はアイスキュロス


イリアス』読んだ時に、アガメムノンの印象は結構強く、だからこそ『オデュッセイア』でその末路を知ってけっこうショックを受けたりしたわけですが。そういう意味で、結構前から気になっているタイトルではありました。


 で。同時に気になっていたのが、この作品の構成のこと。
 『オイディプス王』以降、ギリシャ悲劇における「運命」というのが、自業自得や因果応報ではない、つまり本人にそのような悲惨な目に遭う理由がない出来事で、予言のような形で示された神々の意向や意思であって、おそらくそういう運命に翻弄される人間の姿を描くのがギリシャ悲劇なのではないかな、という予測を立てながらここまで何作かを読んできました。しかしそうだとするなら、戦争に行ってる間に浮気していた妻に、帰国したら殺されたというアガメムノンの話は、家庭内の事件に過ぎなくて、上記のような「ギリシャ悲劇」の枠内から外れるんじゃないかという気がしていたのです。
 そして実際読んでみて、なるほどと納得したのでした。アガメムノンに連れられて来たトロイアの予言者、カッサンドラーが、惨劇の直前に激しい神がかりに陥ってこれから起こる事を矢継ぎ早に予言し、さらにそれがアガメムノンの親の代に起こった事と関わる、アガメムノンの「家の呪い」に起因する事を述べ立てるわけでした。そういう、アガメムノン個人の行動の埒外に原因のある惨劇であるという構図が電撃的に挿入されることで、直後に起こる事件もまた「運命」になるわけでした。事件後のコロスの言葉に、これもまた神々の意思でないはずがないという事が歌われてもいますので、やはり私がとりあえず仮説したギリシャ悲劇の構図、これが運命を巡る話であるというところがちゃんと描かれていたので、ストンと胃の腑に落ちたという次第。


 上記のカッサンドラーの予言のシーンは、古代ギリシャの神がかり、シャーマニズムの様子が生々しく描かれているという意味でも面白く、その辺も興味深く読みました。
 肝心の、事件の瞬間は舞台上では起こらず、何が起こったのか使者の報告を通して語られるのはギリシャ悲劇の定型のようなのでもう慣れましたが、この『アガメムノーン』では、当のアガメムノンが刺された瞬間の声は聞こえてくるようで、比較的臨場感はある方なのかも……w それにしても、トロイア戦争の英雄の最期としてはあまりにも呆気なく、それがまた何とも言えない読後感を醸しているのでありました。


 大体そんな感じですが、実はこれを読んでいる間、かなり頭の中で個々の表現が上滑りして、うまく頭に入って来ない状態のまま読み終えてしまった面があって。読後感が希薄になりそうだったところを、岩波文庫版本書の解説に大変助けられました。多分、私の読書人生で、文庫解説をこんなにありがたく読んだのは初めてかも知れないってくらいでした(笑)。まぁ、私がどうにも韻文が苦手だからという事なんですけれども。どういうわけか全然頭に入らんのですよね……。本当、岩波文庫版のホメロス作品が散文形式に訳されてて助かったな、と今さら思っているところです。


 そんな感じで。