ウエストサイド物語



 ミュージカル映画は最近映画を重点的に見始めるまでほとんど見た事がなかったわけですが(『メアリー・ポピンズ』と『サウンド・オブ・ミュージック』くらいかなぁ)、見始めてみたらけっこう性に合って楽しめたりしています。そんなわけで、この作品。


 シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』の翻案という事で、同作を読んだ時に感じた気おくれ感というか、「その若さが眩しすぎてオッサンにはツラい」というのが結構あった部分もありますw いやぁ、さすがにストリートのテリトリー占領合戦、みたいなのを見ても、のめり込むより先に「そんな事に夢中になれるなんて若いのね」的に感じてしまって、もう作中人物で一番感情移入できるのはドク、というレベル(笑)。年はとりたくないもんだねぇ。
 それでも、ミュージカル調という事で、ジェット団とシャーク団の抗争もぜんぶダンス混じりに表現されていて、その事が演出面でかなり奏功してるんだろうなという感じはありました。本当ならかなり猥雑で見るに堪えないところを、うまく抽象化しているというか。


 シェイクスピアに材をとった悲恋の物語ってのがメインなわけですが、同時にアメリカの社会問題的なものもかなりアグレッシブに取り入れていて、その事も非常に感嘆するところでした。しかも、移民問題みたいなシリアスなテーマを語る場面こそが、一番楽しく陽気な場面として描かれている。この映画で一番楽しいシーンの一つは、プエルトリコ系のベルナルドたちがアパートの屋上で歌い踊る「America」のシーンだと思いますが、アメリカという国の希望と社会問題を織り込んで、それを「見ていて気持ちいいシーン」にしてしまうセンスがもう最高なんですよね。日本人ってどうしても、シリアスな問題はしかめ面で重々しく語らなきゃならないってところがあるんですけど、難しい問題こそ明るく提示するっていう、こういうのは本当かなわないなぁと思います。ダンスも良いけど、相手の主張に対して韻を踏みながら対抗したフレーズを歌っていくっていう、その駆け引きもすごい楽しい。これは吹き替えじゃなく字幕で見ているがゆえの楽しさだと思いました。


 それにしてもミュージカル映画ってなんかこう、登場人物が歌い始めるとその周辺に特殊効果を持つフィールドが形成されるっていうか、なんかこう固有結界が展開される的な、そんな風にしか見えません(笑)。家族に知られないようにベランダでこっそり声を潜めて逢ってるはずなのに、めちゃくちゃ大声の美声で歌い始めて、けど歌ってる間は決して見つからないとか。ダンスパーティーの最中に主人公が歌い始めると周囲の人たちが画面外にフェードアウトしたり、「クールになれ」って歌で強制的にチームのパニックを抑制したりとか。明らかに歌っている間は周辺一帯に特殊な影響力が行使されている感じ(笑)。いや演劇由来の演出なのは分かるんですが……。
 特に口論も歌でやるもんで、交互に歌に乗せて自分の言いたいこと言って、歌合戦で最終的に歌い負けた方が勝った方の歌に合流して一緒に声を合わせて歌って、そうして歌が終わった頃には意思疎通が出来てる、みたいな。一体どうなっているのか(笑)。
 とはいえ、そういう演出になってるお蔭で、全体的な雰囲気が明るいのが良いですね。ケンカしてても楽しそうだし仲良さそうだし。


 そんなわけで、全体的に堪能したのですが、まぁしかし欲を言うなら、ミュージカル映画はやっぱりハッピーエンドが良いなぁ、という(笑)。元ネタ的にも仕方ないことなんですけど、せっかくこんなに楽しい空気に溢れた作品なんだから……という思いもやはり出てくるわけでした。
 さすがに無い物ねだりなのでしょうけどね。ともあれ、ミュージカル映画って楽しい、という思いを新たにしたのでした。そんな私は、案外演劇とか見たらハマる人なのかも知れない。