街の灯
- 出版社/メーカー: パイオニアLDC
- 発売日: 2000/01/25
- メディア: DVD
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引き続きチャップリン。
なんかこう、相変わらず絶妙に変なツボを刺激されて、見てて共感したりつらくなったり忙しい(笑)。
最初から最後まで、喜劇としての面白さは貫徹されてて、そういう意味では全編通して面白い映画です。酔っぱらうと躁鬱の振れ幅が極端になる富豪と、それに付き合わされるチャップリンみたいな。
しかしそれと同じくらいに、こう、盲目の花売り娘と出会って張り切っちゃうチャップリンと、しかし「そういう頑張り」は基本報われないよなと予測している視聴者私の実感との間で感情がグワングワンに上がり下がりして、すごい大変な感じ。
チャップリンが演じてるのは要するに浮浪者だけど、のんきで天真爛漫で、別に鬱屈はしていないのですよね。自分のペースでのんびりやっている。ところが、『黄金狂時代』でもそうだったけど、女の子と出会って張り切っちゃうと、そんなチャップリンが俄然やる気を出して真面目に働き始めるんですよ(笑)。お前、マジメに働こうと思えば働けるんじゃん、とも思うわけだけど、それはつまり「あえてせこせこ働かない」って選択ができる心の余裕があるってことでもあるんだな。
しかし女の子のためを思って、方針変更して仕事したり、ボクシングでボコボコにされたりした挙句、半ば濡れ衣で警察に捕まってそんな余裕すら無くしてしまうわけです。
正直、気持ちすっげぇ分かるし、だからこそ見ててなんか、つらいよなぁ、と。
この作品を見ていて、明確に私の「展開の予測」が裏切られたシーンが二つありました。
一つは、ボクシングの試合の結果。喜劇映画だし、絶対勝てないと思われた相手にチャップリンが滑稽な戦い方で(偶然)勝ってしまう、くらいの展開かと思ったわけです。ところが、勝てないんだよな。試合自体は抱腹絶倒の珍妙な試合なんだけど、「喜劇だから」何となく都合のいい展開になってもいいや、ってな事を許さないんだよね、この映画。その、妙なリアリズム。
結果として、チャップリン演じる浮浪者はどうにか必要な金を手に入れるけれど、その代償として前科者になってしまうという、すっげぇ苦い展開になっているのだった。
もう一つ意外だったのが、ラストシーン。
最後、チャップリンは自分が影の援助者であるという事を明かさずに去るのかと思ってたわけです。その方が映画として、悲恋の話として美しく終われるから。ところが、相手にそのことが分かっちゃうんですよね。これ、けっこうビックリしたのでした。
真相が相手に伝わってハッピーエンドかっていうと、多分そんなことなくて、元花売り娘さんにしてみれば自分が(勝手に)思い描いていた理想像とのギャップはどうにも埋めがたいだろうし、主人公側にしてみたって、もはやかつての「心の余裕を持った自適な浮浪者」ですらなく、前科まで背負ってしまった「ガチの浮浪者」なわけで、豊かな生活を持つようになった彼女との間はギクシャクするに決まっている、としか見えない。
そういう、あまり先行きの明るくないだろう未来を余韻として全部残していくラストシーンに見えたのでした。はっきりいって、「これでよかったんだ」って一人納得して、真相が知られないままひっそりと去る主人公、っていう方がよほど美しく決まるんですよ。でも、この作品はそういうロマンスも許さないんだな。
なんかこう、そういう、喜劇で散々笑った後に、作中で示されたシビアさがじわじわと、ボディブローのように効いてくるという、そんな奇妙な感じがしたのでした。
どうにも、チャップリン映画面白いのに、結局見終わったあと心の片隅が痛くなってつらいよ……。