赤ひげ


赤ひげ [DVD]

赤ひげ [DVD]


 ちまちま見ている黒澤映画。本作は医者師弟を主人公にしたヒューマンドラマ。


 このブログを継続して読んでくださっている方ならお分かりかと思いますが、私はテレビなんかでしょっちゅう流れてる「ヒューマンドラマ」って大体嫌いです。これは私の性格の、わりと奥底辺りにまで刻まれてる感覚なんで、基本的にどうしようもないレベル。
 とにかく、最初から「人間を肯定する」というスタンスで作られてるものには醒めてしまう、みたいな感じ。要はひねくれたアマノジャクだってことですが。


 そんな私が、驚いた事に本作はほとんど反発や抵抗を感じることなく、最後までのめり込んで見ることができたのでした。
 なぜかと言えば、映画の序盤の方で、世の中の残酷さとか報われなさとか非情とか、そういう負の側面を怖じけずに徹底的に描いてるからなんですよね。最初に主人公が看取りを命じられる蒔絵職人の男は、彼ら医師にももはや手が尽くせない上に、徹底的に不幸な身の上で報われないまま死んでいくわけでした。そういうどうしようもない無力感が最初に提示されているから、「それでも」どうにかしようと奮闘する主人公たちの頑張りが素直に胃の腑に落ちる。そんな気分でした。


 本作の三船敏郎は赤ひげ役。個人的に、ここまで見た中で「ベストオブ三船敏郎トップ3」を選べと言われたら、入れてしまいたくなるくらい魅力的に映りました。当初の見た目からの予想に反して、作中の赤ひげがけっこうチャーミングな性格をしていたせいだと思います。師弟もので師匠が頑固、っていうととにかく若い弟子につらく当たるようなのが多いわけですが、赤ひげは見た目の無骨さのわりに、けっこうストレートに「優しい」んですよね。で、困ってる病人たちのために方便を通すことに対して恥も気後れも感じているという。この人物造形のバランス感覚、すごく良い。


 そして、本作を見ててものすごく印象に残ったことをもう一つ挙げるとすれば、それは「光と影の使い方」でした。人物の顔に影がかかって表情が見えなくなる、みたいなカットの作り方が、やたらと高精度なのでした。
 アニメなら、人物の顔に影を落としたり、といったことはある程度恣意的にできます。が、実写で欲しい位置、欲しい角度に影を落としたいとなれば、綿密な画面作りが必要なはずで。そうであればこそ、そういう影を使った演出がかっちりハマった時の印象の強さは段違いであるな、と。


 そんな感じで、3時間を超える長編でありながら、ほとんどノンストップで見られたので、やはりその緊密な構成とか飽きない物語運びとか、さすがだな、と。
 引き続き、黒澤映画は折に触れて見ていきたいと思います。