モダン・タイムス


モダン・タイムス (2枚組) [DVD]

モダン・タイムス (2枚組) [DVD]


 引き続きチャップリン
 『黄金狂時代』『街の灯』と、見ていて妙なダメージを負って戸惑うという私の変なチャップリン作品視聴でありましたが、今作品はそのようなこともなく、わりと最後まで平静な気持ちで(笑)見終える事ができました。
 と同時に、おそらく、すごく前向きで明るいメッセージが込められてるんで、そこが視聴後のさわやかな気分に通じてるんだろうなと。


 なにげに、様々な社会問題とか政治的な問題とかを貪欲に取り入れている、「社会派」な作品なんだと思うのですよ。工場で働く人たちの劣悪な労働環境、労使間の深刻な格差とか、生活の機械化の非人間的な側面とか、懲役を経験した人の再犯(不安定で厳しい出所後の生活より、監獄の中の生活の方が安定しているので積極的に戻ろうとしてしまうっていうアレ)とかとかとか。
 貧しい人々や労働者側に近しい視点で作られてる映画ですけど、労働運動みたいなものには距離もあって、せっかく生活のために再就職を果たしたチャップリンは、ストライキのせいで再び路頭に迷う羽目になったりして、必ずしもどれかの立場が絶対的に支持されてるわけでもない。


 ……という内容を含んではいるんですけど、やっぱチャップリン映画のすごいところは、その辺の問題を大仰に、深刻な顔で語らずに、ゲラゲラ笑って見られてそれっきりにすることもできる、気楽な喜劇に仕立ててる事なんだろうなとおもったわけでした。  ウエストサイド物語の感想でも書きましたけど、難しい社会問題だからといってそれを小難しい顔で鹿爪らしく語るんじゃなく、むしろ難しい問題をこそ明るくて陽気で楽しい雰囲気の中に語るっていう。身構えずに笑って見終えて、けれどいつの間にか心の片隅に問題意識が静かに落着しているっていう、こういう描き方にはたびたび感嘆したことでした。
 だから、上で書いたように真面目くさってこの作品が投げかけてる問題意識を列挙するなんて本当はバカな事で、この作品の粋なはからいに対するただの野暮なんですけれども(笑)。まぁ、それを言うなら、このブログの映画感想なんて大体野暮なので(開き直り


 個人的には、『街の灯』よりも明るいストーリーだと感じたんですよね。せっかく上手くいきかけた酒場での仕事がフイになっても、どうにかなるさって言える強さが素朴に「良いなー」と思えたわけでした。それってやっぱり、この映画がストーリー全体でちゃんと示してた答えだったからなんでしょう。
 この映画でのチャップリンは、冒頭の機械工場からデパート勤めから何から、やる事なす事ぜんぶ失敗し続けるんですけど、酒場で歌う段になって、いつも通りに失敗しつつもそれ以上に成功してみせるっていう話になってて、そこに気分的に救われたなという気持ちはかなりあったのでした。何やらせてもダメに見えるやつでも、何か一つくらい上手くやり遂げられる役目があるよって言ってもらえたような気分。
 そこがメッセージとしてしっかり伝わってくるから、ラストのチャップリンのセリフも素直に腑に落ちるんだよね、きっと。
 その辺もろもろを総合して、「良い映画だったなぁ」と思えたのでした。


 実際に作品見るまで、『モダン・タイムス』ってとにかく機械工場の非人間性をクローズアップした作品かと思ってたわけですが、実際見てみると話しの舞台があちこち変わる、視野の広い作品だったので、やっぱ実際に見てみないとわからんもんやな、などと。
 そんなこんなでありますが、チャップリン映画がテレビなどで紹介される時には必ず流れる「あの曲」がようやく聞けたので、そういう意味でも大変満足でありました。まさかあの曲に合わせてチャップリン本人が歌うとは思わなんだで……w


 そんな感じ。