東方見聞録
- 作者: 月村辰雄,久保田勝一
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2012/05/17
- メディア: 単行本
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去年からの岩波文庫縛りを抜けて、なぜか東方見聞録。まぁこれも岩波書店ですけど。
なぜだか猛烈に読みたくなったのでした。自分でもよく分かりません(笑)。
これも、書名が有名なわりに、中身を読んだことある人はすっごい少なそうな本なわけですが。どうなんですかね、私は気になったところを自分用の勉強メモに移しているので、そっち関係で収穫が多くなかなか充実した読書ですが、そうでなかったら、少し力点の置きどころが難しい本ではあるかも。
恐らくですけど、この本の記述について言えば、誇張やホラ話もかなり含まれてるでしょうし(笑)、そうでなくマルコ・ポーロ自身が正確を期して語ったことでも記憶違いなども大量にあるのでしょう。それでいて、確かに現地を見ていなければ書けないだろうな、と思えるようなところもたくさんある。そこで、何を汲んで何を捨てるか……と考えると、どうしようもない深みにはまりそうで。
でも、ヘロドトスもそうだけど、こういうのは「絶対確実な真実だけを汲み出そう」として読むよりも、親戚のおじさんが旅行の土産話をノリノリで語ってるのを聞いてる、くらいの気持ちで読んだ方が楽しいよね、とやっぱり思うのでした(笑)。誇張も含めて味わうっていうか。少なくとも、最初に読むときはそれくらいの心構えでありたい。
とりあえず『東方見聞録』と言えば黄金の国ジパング、ってなもんですが、実際読んでみると単なる憧れの対象って感じでもなく、けっこうひどいことも書いてあったりします。元寇らしき事件にも触れられていますが、この本の記述だとジパングの首都は一回占領されちゃってるし(笑)。そもそも、ジパングの人たちは「身代金を受け取れなかったら、捕虜は食べてしまう」って人肉食してることになってたり。あくまで、マルコ・ポーロにとっては数ある辺境の一つに過ぎないって書き方でした。
むしろ面白かったのは、マルコ・ポーロの家が商人の家だった事もあって、現地の特産品やその流通、そして使用している貨幣の種類なんかに必ず触れているという辺り。昆明とかその辺りの町では貨幣として子安貝つかってるとか書いてあって、へぇーと思ったりしました。
で、そうした事情に詳しく、関心を示しているマルコ・ポーロが、元のクビライ・カーンが発行している紙幣にびっくりしていて、「ただ紙を漉き印璽を捺すだけで価値が発生する証書」を驚きをもって伝えているのが、新鮮でした。この時代、ヨーロッパではまだ金貨や銀貨で取引をしていて、ほとんどの人は紙幣なんて見たこともなかったと。マルコ・ポーロは「最も合理的で成功した錬金術」とまで書いているんですね。
それはつまり、貨幣制度の面でも中国王朝はヨーロッパより先を行っていたという事で。その辺りが、証言者マルコ・ポーロの息遣いと共に伝わってくるというのが、何とも得難い読書体験だったのでした。
他にもこまごまと色々気になったり感心したりするところもあり。収穫は多かったかなぁ、と。そんなところでした。