アルスラーン戦記 第一部(1〜7)


王都炎上―アルスラーン戦記〈1〉 (光文社文庫)

王都炎上―アルスラーン戦記〈1〉 (光文社文庫)


 とあるやんごとない事情があって、ちょっと寄り道して読んでみました。別にアニメ化されたからってわけでもなく……というのは、このブログ読んでれば大体察しはつきますかね(笑)。
 ちなみに田中芳樹作品を読むのはこれが初。


 えーとね。めちゃくちゃ面白かったです。実に久しぶりの感覚でした。
 このブログを読んでくださってるような方ならお分かりのように、私はとにかく作品を見たり読んだりするっていうと、作中描写の意味を考え、他作品と比較し、時代性を読み取り、詮索し、深読みし、とにかく何かしら小難しく「批評」っぽい事を始めてしまうと言う人種であります。
 ところが。この作品を読んでる間、そういう私の中の「批評役」がね、沈黙してるんですよ。一言も口を出してこない。
 ただひたすら、物語の中に没入して、物語の展開に一喜一憂して、物語の流れだけを純粋に楽しみました。こんなこと、もう何年も無かったんじゃないかな。まるで中学時代に戻ったかのような読後感(笑)。
 ねぇ。こんな幸福なこと、ないですよ? 物語が、物語自体だけで面白いって。
 深読みをさせたり、読者に考えさせたりするという形で面白い作品もありますが、世の中には単純にただ物語の流れを浴びているだけで楽しいって作品もある。この『アルスラーン戦記』は、後者でした、それも極上の。


 そして同時に、作者としての力量の高さに気づいて、なんかもう虚脱してしまうわけです。1巻を読み終えた時点で、登場人物、登場した勢力、登場した国、町、歴史や背後設定などを思い起こして、その上で文庫版1巻の本の厚さを見て、「ウソだろ……」って呟く(笑)。これほどの情報量を、読者に意識させずに物語の中に織り込んでいくって、小説を書いたことのある方なら同じように戦慄してもらえると思います。とにかくすげぇ。
 「こんな直球ストレートで勝負するすげぇ作家に学生時代に出会ってたら、私の人生変わってたかもしれない」とかツイッターで思わず言ってしまったくらいです(笑)。


 やっぱ個人的にナルサス卿が好きだったのでした。もともとこういう策士キャラ好きだけど、彼の場合その立てる作戦が連戦連勝であるところ、時々アルフリード関係などで取り乱して冷静さを失う辺りのバランスが良いんだよね。ナルサス卿が冷静さを失ってるシーンは私の中で大体名シーン認定されています(笑)。
 ダリューンも好きだし、っていうか登場人物でことさら受け入れられないとか嫌いとかいうキャラが居なくて、そういう意味でも見事な手さばきでした。もうね、この作品に関しては手放しでほめるよ。


 そんな感じで、とにかく楽しい読書でした。第二部以降も、いずれ完結したら読もうかなと。あと他の田中芳樹作品も、今取り組んでる古典読みがひと段落したら読んでみたいと思います。


 いやはや、古典読みをするようになってから、読書で得るものが多くて非常に楽しい。やっぱエンタメにせよ古典にせよ、有名作品を読んでおく、ってのは読書戦略として正しいんだなぁ……。