ギリシア案内記


ギリシア案内記〈上〉 (岩波文庫)

ギリシア案内記〈上〉 (岩波文庫)

ギリシア案内記〈下〉 (岩波文庫)

ギリシア案内記〈下〉 (岩波文庫)


 岩波文庫古代ギリシア関係の情報を漁ってたらたまたま見かけて、非常に欲しくなったのがこの本でした。なので、先日神保町に出向いた時に探し回って、ようやく見つけた。



 アテナイデルフォイなどの見どころを紹介する文字通りの案内記という体裁なのだけれど、内容は今日の旅行ガイドみたいなもんじゃなくて、当地の建物とそこにある彫像などの内容に、その由来、背景、場合によっては関連する歴史から現地の伝承や信仰形態などについてまで、とにかく詳細に述べている次第。建物に関する記述が、現代において考古学成果として発掘された遺構の同定に役立つといった重要性があとがきなどで指摘されてますが、むしろ私としては伝説伝承や信仰に関する記述が宝の山って感じでした。後でメモしたいところを線で引いて記しつけてるんですが、もうほとんど毎ページ線引いてる勢い。


 ギリシャ神話の絢爛たる神々のプロフィールなんかは色んな本に載っていますけれど、逆に遠い存在みたいにも感じてしまうわけです。この本だと、たとえばアレスの神殿で行われる祭礼で、神火をたいまつに受けたランナーたちが競走して、火を消さずに最初にゴールした者が称えられた、みたいな祭礼に関するエピソードが語られると、その信仰が一気に具体性を持って感じられるし、親近感も湧きますよね。ちょっと京都鞍馬の火祭りみたいだし。
 一口にゼウスと言っても、嘆願者を庇護するゼウス、客の歓待を司るゼウスとか、いろんな属性が付された別の顔を持っていたりして、一面的な「ギリシャの神々のプロフィール」だけじゃ済まないわけで、その辺を手触りと共に紹介してくれるこの本は、とても読みごたえのある素晴らしい本でした。
 惜しむらくは、本書は全10巻あるうちの1、2、10巻だけの抄訳で、全訳じゃないそうで。いずれ全訳も読んでみたいなーと思ったり思わなかったり。こんだけの宝の山がまだ7割近くも残されてるっていうんだから、ねぇ。


 そんな感じで、そうでなくても増える一方の「読みたい本候補」に、また長大な追加が発生してしまって嬉しい悲鳴な今日この頃なのでした。
 さて、とりあえず次。