酔いどれ天使



 三船敏郎出世作らしい。とりあえず黒澤映画を引き続き見ているわけですが。


 この映画がつくられた当時に、ヤクザものっていうジャンルがどれくらい成立してたのか詳しくないですけど、単にヤクザな世界を描くというのとも、単に人情ものでそこにヤクザな登場人物を出すっていうだけとも違って、人情ものとヤクザものが交錯していくというか、双方の世界が重なる部分をうまく切り取ってる脚本が見事だなーというのが感想でした。で、庶民代表である、志村喬演じる医師にも「しょうもないところ」とか「みっともないところ」がちゃんと描かれてて、だから彼がヤクザな男に説教をしても、それが鼻につかないという。
 黒澤監督はそういうところをきっちりコントロールしてくるので、人情ドラマ系作品が苦手な私でも楽しんで見られるのが嬉しいところです。


 創作作品において、「汚いものを、ちゃんと汚く描く」というのがいかに大事かっていうのを、再認識させられた作品でした。冒頭から移される、主人公の医師の家の前にある汚い沼が、再三その汚さを強調されてて白黒でもウェッってなるんですけど(笑)、その存在が要所要所で脚本を引き締めているという、メリハリのつけかたは素朴に感心します。


 あと、やっぱ三船敏郎かなぁ。『赤ひげ』では自分が人情あふれる医師を演じてた三船が、ここではそういう医師に何かと衝突するやんちゃな若者やってたのかというのが、いろいろと面白い。これは『酔いどれ天使』→『赤ひげ』の順番で見た方が面白かったかもしれませんが。でも、根底にあるものは共通してるのかなという感じがして、色々と比べてみて楽しんだりとか。
 そんな感じで。黒澤映画の中でも、小粒ながら何気に指折り数えるくらい好きな雰囲気の作品だったかもしれない。良い映画でした。
 また引き続き、他の作品も見ていきたいと思います。