ライムライト


ライムライト (2枚組) [DVD]

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 まだ見てない作品もありますけど、とりあえずチャップリン視聴はこれで切り上げにしようかなーというわけで、今回は『ライムライト』。
 ヒゲも無い衣装も普通の、素顔のチャップリンなわけですが、結果としてチャップリン自身の本音なのかなーという部分も一番多く感じられる作品でありました。


 全体に対する感想を言うと、うん、とにかく素晴らしい映画でした。ニュアンスとしては、「素晴らしい映画」だった、というよりも、素晴らしい「映画」だった、という感じ(分かりにくい


 こんな私ではありますが、高校時代には図書館に入っていた『キネマ旬報』をめくってみたり、名作映画を紹介するファイルマガジンを数号買ってみたりしていた事もあったのです。特に、『キネマ旬報』には「お楽しみはこれからだ」という、映画の名セリフを毎回イラスト入りで紹介していく連載コーナーがあって、そういうページを眺めながら、いつかこうやって、映画の名セリフをゆっくり味わうような、そういう映画視聴がしたいなと憧れていた事があったわけですよ。


 この『ライムライト』の、特に序盤を見ていて、そんな高校時代の頃のことを強烈に思い出していたのでした。正に今、あの頃の憧れを実現しているのだ、という実感があったわけです。年老いた喜劇役者カルヴェロが、落ち込んだバレリーナのテリーを励ますための言葉一つ一つが、噛みしめるに足る名セリフの連続になっていて、しかもその場面も物語の展開に気を取られずに、セリフのやり取りをじっくり味わえるような静的でゆったりとした場面になってて。
 もちろん、この2年ほどの間に見てきた名だたる名作映画にも当然名セリフと言われて遜色ないセリフがたくさんあったわけですが、それらは物語の展開の中でふっと通りかかるような感じで、「今のセリフいいなぁ」と思っても、話の続きが気になるから立ち止まらずに先へ進んでしまっていたのでした。それにくらべて本作『ライムライト』の序盤のシーンは、まだ物語にあまり動きが無い中で、まさにカルヴェロの言葉にスポットを当てたような展開になっているから、じっくりセリフを噛みしめる事ができたわけです。
 しかもそれが、純粋に人を励ましたいっていう、すごく優しい内容なんで、もういっぺんに好きになっちゃったんですな。
 そうなんだよ、正にこういう風に、セリフの含蓄を噛みしめて味わうような、そんな映画視聴体験がしたかったんだよ、ずぅっと。高校時代に漠然と憧れていた「映画」に、ようやく出会えたような気がしたわけで、これはもう手放しで嬉しいわけです。
 多分、私の人生の中で、「映画を見た」という実感が最も強かった瞬間だったと思います。



 実際のところ、本作の脚本にアラが無いとは思いません。
 たとえば、今までさんざん落ち目であることを強調されてたカルヴェロが、最後の舞台で今までとまったく同じ演目をやって大ウケしてるのが腑に落ちない、みたいなこと。映画感想サイトみたいなところでも同様の意見を目にしましたが、私も見ていて気にはなりました。
 他にも、今までの当ブログでのチャップリン作品への感想にも書いたように、チャップリンは喜劇作品である事に甘んじて都合のいいロマンスに走らず、肝心なところはリアリズムに従ってきた作者であるという印象が強かったので、この『ライムライト』のラスト近辺のまとまり方はそれらに比べるとロマンスの色を感じた、といった部分はあります。
 とはいえ。
 私は幸いにも、評論家でも批評家でもありません。当ブログのこの記事も感想という名目でありますから、幸福な事に私はこのように言明する事ができます――まぁ、その辺のアラは瑣事だよね、って。
 個人・私にとって、本作の視聴が得がたい体験だった事は上述の通りで、だから作品の完成度に関する話をあえてうっちゃって「この作品は素晴らしかった」と、言ってしまいます。それができるアマチュア感想の素晴らしさですよ(笑)。


そんな感じで。