レオナルド・ダ・ヴィンチの手記


レオナルド・ダ・ヴィンチの手記 上 (岩波文庫 青 550-1)

レオナルド・ダ・ヴィンチの手記 上 (岩波文庫 青 550-1)

レオナルド・ダ・ヴィンチの手記 下 (岩波文庫 青 550-2)

レオナルド・ダ・ヴィンチの手記 下 (岩波文庫 青 550-2)


 がつがつ基本文献や有名な(というか私が名前を聞いたことがある)本を読んでいくキャンペーン。まぁ主に岩波文庫などを読んでいるわけですが。そんなわけでこれ。いきなりルネサンスに飛んだり古代に戻ったり忙しいけれど気にしない。


 まぁなんだ、気難しい人だったんだろうな、というのがヒシヒシ伝わって来る内容でありました(笑)。時を隔ててその才能に感嘆しながら触れるのは良いけど、友人付き合いしたら色々大変だろうな的な。


 一つのまとまった著作として書かれたものではなく、多年にわたる手記を編集し直したものなので、内容は雑多です。が、ダ・ヴィンチというオールラウンダーな才能ある人物の多才さを感じるにはその方が合ってるのでしょう。非常に楽しみました。
 居丈高に自身の能力を誇示したと思ったら書簡で金策に右往左往してたり、世間に流布している自然科学関連の説に目くじらを立てたと思ったらTwitter大喜利的な言葉遊びに嬉々として興じていたり。そういう振れ幅の広さが楽しい。
 また、以前アリストテレスの『動物誌』読んだ時にも感じた、「当代の天才が、興味関心の赴くままにブルドーザーのような力技で真理を探究している様子」、そのパワープレイぶりを見るのが楽しい(笑)。なんというか、知に対するスタミナが半端じゃないんですよね。


 いろいろな話題に触れているわけですが、一番面白かったのはやはり絵画技法について述べたところと、自然科学関連の記述。特にその双方の関係性。
 ダ・ヴィンチ自身は、流体力学や地学や気象学、生物学や何やらについて極めて実証主義的に取り組んでいるわけですが。一方で、この時代にはまだ科学のための言葉、科学用語が整備されていなかったわけで。その結果、すごく文学的な表現で科学が語られているのですね。
 一方で、ダ・ヴィンチにとって絵画技法は科学的な裏付けと不可分だったようで、人を描くには解剖学的な知識が必須だし、風景を描くには気象学や地理学の知見を込めるべきだと考えていたようです。
 この双方からの接近のおかげで、文と理が分かたれていなかった頃の幸福な同居を見る心地でした。
 もちろんのこと、今日の科学的知見から見れば誤ってる記述なんてのも少なくないのでしょうけどね。けどそれをあげつらったって何にもならない。そういう事よりも、分野を分かたずあらゆる知と創作へ自由に関心と活動をドライヴさせることができた時代の空気を味わうのが良いのだろうな、と思いながら読んでいました。
 何より、雑食的にあちこちつまみ食いするような読書しか出来ない私のような人間にとって、こういうあり方は非常に勇気づけられたり。


 そんな感じで。楽しみ方が分かって来るまで少し時間がかかりましたが、それに気づいてからは大変に楽しい読書になってくれました。
 さて次。