ネットロア


ネットロア: ウェブ時代の「ハナシ」の伝承

ネットロア: ウェブ時代の「ハナシ」の伝承


 これも就寝前の息抜きにちょこちょこ読んでた本。
 ネット掲示板などで語られる都市伝説を、民俗学の説話研究などと接続しようという試み。ネットでの都市伝説を収集紹介する本ではなく、それらを研究するための視点を充実させようという内容でした。


 まぁ、何と言いますか、本書に掲載されてる論考の初出はかなり古く、そのため話題の中心が2ちゃんねるだったりして。なんかこう、今さらスレッドフロート式掲示板の仕組みとそこでのローカルルール等について折り目正しく説明されると、こそばゆいというかモヤモヤするというか……という感想も正直あったわけですが(笑)。
 ネットはどうしても移り変わりが激しいので仕方ない部分もありますけれど……そういう部分を差し引いても、いろいろと示唆に富む面白い本でした。インターネットが登場した事で現れた、新しいメディアと機械とインターフェースだと思っていたものについて、より広い視野から、既存の延長線上にある想像力である、あるいは既存の分析方法を援用して考えることが出来ると示されることが、非常に刺激的で。
 たとえば長大なHTML上の文章が、テキスト全体を見渡すことが出来ずに順繰りに読んでいかないといけないという特徴を持つことについて「巻物と相似だ」と指摘されたりすると、思わず膝を叩きたくなるわけですね。そういえば画面をスクロールする、の「スクロール」には巻物って意味もあったのでした。
 他にも、様々な示唆を受けたり。


 とはいえ、こうして面白く分析されてみると、ではさらに最近出たばかりのネット怪談なんかも分析してもらいたくなるわけですよね。本書で言及されてるような怪談が主流だった時期から、また時代は流れて、さらにスマホやその他の新しいネット界隈のサービスが出て、それにまつわる新しい怪談も出てきてたりしますし。
 たとえば、SNSスマホの位置情報を絡めた怪談。数年の間更新がなく音信不通だったとある人のアカウントから突然意味不明な書き込みが来て、その位置情報で現在地を見たら湖のど真ん中……つまり水の底だった……なんていう怪談もTwitterなどで見かけます。
 あるいは「きさらぎ駅」っていう、見た事も聞いた事も無い駅に突然着いてしまって、周囲は無人で何か不気味……という報告を、Twitterで写真付きでやっていくという怪談もあったり。
 なんというか、我々現代人が、新しい文明の利器やデバイスを次々手にして、そのたびにそれら新しい環境にマッチした怪談を生み出して怖がり続けてるという事に、何とも言えない面白味を感じたりします。
 この本の著者の人に、「きさらぎ駅」怪談の分析、やってほしいなぁ(笑)。


 古典縛りの読書も、もう3年目とかになると「最近出た本も読みたい」となるわけですが、一度古典から完全に離れてしまうと、逆に「古典を読むぞ」という気力がもう戻って来ない気がしてなかなか難しいところ。とはいえ、やっぱたまにはこういう本読むと楽しいので、たまに隙を見て読んでいきたいと思います。
 さてさて。