イタリア紀行



 ゲーテは少し集中的に読んでおこう、というわけで『イタリア紀行』。彼のイタリア旅行は非常に有名、かつ文学史的にも重要だったという事で。


 序盤は情緒がよく伝わって来る旅行記という感じで、久しぶりに肩ひじ張らずに読めるような気ままさがありました。最近一人旅に行っていない私の旅行グルーヴが若干高まりそうになるくらい。
 それが、ローマに活動拠点を持ち、ナポリ、ローマと長期滞在するうちに、旅行記というよりゲーテの創作修行の記録になっていくわけでした。
 うん、やっぱこれくらい自分の創作に徹底的に向き合う集中修行期間とれると効果上がるよね、羨ましいこと。


 そんな感じではありますが、要所要所に、作家の旅行記とは思えない大冒険が挟まったりもするので、意外に楽しめてしまう辺りも何ともいえない読み味でした。稀代の詐欺師カリオストロ伯爵の親族に何故か突撃潜入取材を敢行したり、噴火中のヴェスヴィオ火山の火口に接近して噴石に晒されたり、帰りの客船が航路ミスであわや遭難しそうになったり……。ハラハラドキドキです(笑)。
 他にも、いわばこういう、連日手紙として書かれていたという、ある意味散漫な内容だからこそ、同時代の細かなことや日常の空気が伝わって来るのが、なかなか楽しめました。


 読んでいて他に気になったのは、この時代、我々が知る「観光」が徐々に成立して来ていたのかな、というのが端々に見えたこととか。本文中、ただ見学するだけに飽きた旅行者のために、模造の宝石を作る体験をさせる工房を考え出した人物の話が出てきます。今でも旅先で陶芸工房があって自分の絵を入れたマグカップ作らせてくれたりしますけど、そういう発想の端緒が正に生まれ始めているところに立ち会えたり。あるいは、歴史的な古戦場である事を案内人がくどくど説明するのを邪魔にしつつ足元の石のサンプル取るのに夢中になってみたり。かと思うと、イタリアに入ったばかりの小規模な砦をスケッチしていたら、そんなものに歴史的・観光的価値があると考えた事もない地元の人にスパイと間違われて詰問されたり。その辺りの落差があるのも、正に「観光旅行」が定着し始める過渡期だからこそのグラデーションなのかなと思ったりもするわけです。
 その他もろもろ、得るところはありました。
 さて、まだまだゲーテ読書を続けるわけですが、その前にちょっと寄り道……。