モノローグジェネレーション



 ネット上の書評サイトで紹介されてて、気になって買ってみた。四コマ漫画です。
 それこそ『あずまんが大王』みたいな、デフォルメされたキャラによる、まったく奇をてらったところのない見た目の四コマ漫画なのですが。しかし、作品全体の狙いはとんでもなく深い。


 中学生、大学生、ストリートミュージシャン、アラサーOL、定年間近の小学校教師、年金生活の老婆など、広くいろんな世代の(互いに接点のない)女性が順繰りに登場して、「モノローグ」=独り語りのように4コマずつ登場していきます。各話ごとに、雪、旅、クリスマス、休み、いじめ、などのテーマがあって、それを各登場人物の身近に沿ってモノローグしていくという。
 独り語りが中心なので、作中に吹き出しによる会話が登場する事もマレです。各登場人物という経糸と、各話ごとのテーマという横糸だけがあって、それぞれが交わる事がないという構成なのです。
 そして、それらを重ねていくうちに、今という時代のコミュニケーションの、掴みどころのない側面が浮き彫りになってくるという、そんな構想なのかなと読みました。



 特に冒頭、携帯電話をテーマにした第一話が、いきなりこの作品全体の射程を的確に描いていて、「こりゃあ気を抜いて読むわけにはいかないぞ」と思わされました。
 一番最初、主要登場人物の中学生女子が初めて携帯電話を買ってもらい、夢中になって友達の電話番号を携帯に登録していきます。そしてその電話帳画面を眺めながら、「私 友達に順位つけちゃったんだなぁ ウッキウキで全く自然に」と述懐します。
 何人かのモノローグの後、年金生活者だという老婆の段になると、携帯は持っているが着信拒否登録した相手の方が多いと述懐します。画面にヨメ、ムコなどの文字。「孫と話せりゃそれでいいんじゃ」と付け加えます。
 そして最後に、再び中学生女子が登場し、自分が携帯を持ち始めた事で、携帯を持っていない友人が仲間外れになってしまい、別な友人グループに移ってしまった。謝りたいけれど、「ごめんねって言う手段がケータイ以外思いつかない」と途方に暮れるのでした。



 この、第一話に散らされたいくつかの話を見るだけで、我々は明確に思い知らされてしまいます。
 現代においては、人間関係すらコンテンツ化されてしまっている事を。コンテンツであるが故に順位づけが出来、取捨選択して欲しい人間関係だけを残す事も出来るのだ、と。そんな苦い追認から、この本は始まります。



 そうして眺めてみれば、この本の構成自体が、あるものに似ている事には気づくことと思います。互いに交わらない独り語りが次々に流れてくる風景。つまり、ツイッターフェイスブックのタイムラインです。作中にそうしたSNSを思わせる要素は一切出てきませんが、しかし作品構成は明らかにそうしたものと相似になるように描かれているように思えます。
 そのようなフォーマットを作った上で、この作者さんが何を描こうとしたのか……については、是非本作を読んでいただきたいと思います。いや本当、こういう作品はもっと広く読まれるべきだと思うの。



 とかく、一読して思ったのは、日本すげぇって事でした。四コマ漫画って明らかに、こんな周到で深いテーマを描き出すためのメディアじゃないのにさ、どんな表現形式でも深めて極めて、こんなとんでもない作品を結実させてしまうクリエイターが出てくるんだもんなぁ。これは日本という国の表現のすそ野の広さだと思います。マジで。
 そんなオーバーな事を思うくらい、素晴らしい作品でした。
 あ、もちろん、苦い話ばかりじゃなくて、くすっと笑えるところもたくさんあります。そういう呼吸も良いのです。
 とにかくオススメ。身軽さと深さを両立させた、四コマ漫画の認識を改めさせてくれる作品です。