宗像教授異考録
そもそも私は『宗像教授伝奇考』という作品の大ファンでして。
大学時代とか、もう手当たり次第に知り合いに紹介しては貸しまくってたわけです。褒めちぎってたしね。
『伝奇考』時代は、『コミックトムプラス』という、刊行当時から私の身の回りで誰も知らない超マイナー雑誌に連載されていたのですが。掲載誌の知名度の低さの割りに宗像教授の名前は結構あちこちで知れ渡ってたりしました。
そして『トムプラス』はついに廃刊。宗像教授も作中でモンゴルの方へ旅立って行きました。
そんな教授が数年ぶりに、メジャーなマンガ雑誌『ビッグコミック』に帰って来たというのがこの『宗像教授異考録』。実に一年以上前の話。ついでに教授もモンゴルから帰国(笑)。
- 作者: 星野之宣
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2005/08/01
- メディア: コミック
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かつて大ファンだった私がいままで、単行本が5冊出るまでこの続編を読んでいなかったのは、連載を読んでいる段階でどこかピンと来る話がなかったからなんですが。
今回、昔を懐かしむ勢いで一気買いし、通しで読んでみて思ったことは、「やっぱパワーダウンしてるなぁ」ってことでした。
『伝奇考』時代の宗像教授は、それはもう驚くべき奇抜な民俗学・歴史学上の仮説を、大量のそして妙に説得力のある物証と理論展開でゴリ押しで納得させてしまう、そんなパワフルな作品でした。
今回のこの『異考録』でも良いアイディアは沢山あるのです。着想の非凡さは並みじゃありません。
けど論証が全体的に甘いなぁ、という感じ。過去作品に比べてそこに凄みがない分、読後感が1段階違ったのは否めないところです。
ていうか、こんな一話一話に膨大な下調べの必要な作品を、週刊連載してるわけですからね。かつてのコミックトムプラスが月刊だったことを考えると、そうした詰めが多少甘くなるのは仕方ない面もある。
とはいえやはり、我々読者はそうした製作環境の状況まで含めて作品を読むとは限らないし、作品は作品です。
……というか元々、この話ってそんなに話のバリエーションがある作品じゃないので、そうした作中で提示される仮説とかがパワーダウンすると、途端に色々アラが見えてくるんですよね。
大体いつも、「何か神話や伝説の紹介 → それに対する宗像教授の仮説 → 地下から新たな遺跡や遺物が発見される → 教授の仮説を裏付ける」というパターンが笑ってしまうくらい毎回繰り返されるという、考えられないくらいの一本道ストーリーですし(笑)。一巻につき一回は洞窟の中に落ちるか入るかして、そこで過去の遺物とご対面です。逆によくこれで続いてるなと感心すらしてしまいます(笑)
。
知的探究心に生きてる人=善、利潤追求に生きてる人=悪っていう単純な構図が始終展開されていて、とにかく偉い人はたいてい感じ悪く描写されてたり。
もう本当に、教授の提示する仮説の面白さ以外のあらゆる要素がやっつけです(笑)。今日日、こんなの逆になかなかないぜ?
そんな偏った作品なのに、それでもどこか愛着を感じてしまうのは、ここで提示されてる「学問の探求の面白さ」っていう要素の屈託のなさに、妙なノスタルジーみたいなのを感じるからなのかも知れません。極端に描写されているけれど、それでも作中人物たちが「学問」している姿がすこく楽しそうなんですよね。
私も高校の頃、とにかく民俗学とか神話学とか、それ系統の本を開いているだけで幸せだった時期があったから、懐かしいのかも。
なんだかんだでだからやっぱり、そういうテーマに興味のある人にはオススメしてしまうのでした。