平賀源内
- 作者: 城福勇
- 出版社/メーカー: 吉川弘文館
- 発売日: 1985/12
- メディア: 単行本
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先日、からくりについての本を読んでから、気になっていた平賀源内の伝記を探して読んでみました。
そもそも源内については、歴史の教科書で「エレキテルの作者」として出てきたくらいしか基本知らないわけなのですが。しかし一体何をした人なのか、イマイチ把握してなかったりして。
ていうか、エレキテルにしても、それの何がどう偉いのか? とかも(ぇ
それで読んでみたわけですが、まあ何というか……。
本草学を志して30歳前後くらいの時に大阪、そして江戸へ上って来て、博覧会的なものを開いたり、いろいろ活動するようになる。
ところがこの人、ものすごい移り気な人なのですよ。あっちこっちに手を出しては、全部詰めが甘くて失敗するという(笑)。
海外の百貨図譜の翻訳を企画するもやり遂げられず、鉱山作りも結局失敗、炭焼もダメだったし、「源内焼」という陶器の製作を企画するもやっぱり半端に洋風だし事業としてもあまり成功せず。何をやっても中途半端。そういう所に妙に親近感を感じますw
また、とんでもない見栄っ張りで。
江戸時代の風習として、一度一つの藩の藩士をやめると、以降他の藩での士官がかなわない、というようなのがあったらしく。そのせいで源内は結局上京後も士官できないわけなのですが、そんな事はおくびにも出さずに「たかが少々の石米で腰を折りたくないんだ」とか言いふらしていたらしく。親友だった杉田玄白もその言葉を信じてたっぽいとか。
最高だったのは、温度計に関するエピソードで。
舶来の温度計を見せられた源内が、友人たちのいる場で瞬時にその仕組みを看破し、「これくらいのものなら俺のもすぐ作れる」と豪語したそうで。
で、それから3年後、その友人の元に源内がふらりと現れて、「いやー、ずっと忙しくて手つかずだったんだけどさ、最近ちょっとだけ暇が出来たから、ちゃちゃっと作ってみたよ温度計」って言って、お手製の温度計を持ってきたという。
……う、ウソに決まってる!(笑)
絶対お前それ3年ずっと試行錯誤してただろ、というw 内心で突っ込みつつ、笑いをこらえて読み進めたら、この本の作者からも「おそらく製作に三年かかったのであろう」とか書かれてて、「ですよねー」気分に(笑)。
他にも、彼は石綿を発見したりしたんですが。それを使って織物を織れば、汚れても火で焼けば汚れだけが落ちて何度も使える、これを「火浣布(かかんぷ)」というそうで。源内はこれを作って得意げに「洋の東西を問わず初の発明品、私が発明したんだぜ」と意気揚々と本に書いてたりするんですが。
後日源内の弟子が書いたところによると、オランダ人にこの石綿を見せに行ったら「これは良い石綿だ、これを使えば良い火浣布ができるよ、かく言う私も1枚持っていてね」と言って実物をポケットから取り出したとか。
……何だろ、平賀源内って、ドクター中松みたいな人だったんだろうか(笑)。
源内は長男だったので、当然江戸に出るにあたって後継ぎを別に用意しなければいけなくて、妹の婿に家督を継がせます。
で、今度は羊毛から織物を作ろうと、よせばいいのに羊を飼うところから始めまして(笑)。しかも、飼う土地がないので実家の妹婿に羊の世話をさせたという。妹婿すげぇ迷惑w
けれど全然上手くいかなくて頓挫しかけたんですが、そこで堺の大商人から声がかかって、援助してもらったらようやく成功した。
で、そこで良い気になった源内、友人に手紙で書くわけです、言うに事欠いて、
兎角大都会にあらざれば、事は成就致さず候。縁の下の力持や井蛙の了簡にては埒明き申さず候。
……おい妹婿、こいつそろそろ殴って良いぞ?(笑)
とにかく万事そんな感じなんですよ。
で、たまたま舶来のエレキテルを修理する事に成功して、それ自体は確かに偉業なのですが、結局それがどういう原理のものなのか源内はあまり把握してなかったらしく。しかも、結局そのエレキテルを見世物にして、お大名たちに公開して褒美をもらう、といった用途しか見出せなかったりして。
なんか、偉人っていうにはあまりにも俗っぽいし。単に移り気で野心家の起業家という、今もそこらに転がってそうな人という感じがします。
もちろん、彼が備えていた知識も行動力も、すごいものではあるのだけれど。
彼を評して「山師」というのが、当時から言われていたらしいのですが、教科書に載ってる偉人だからってこの評価を否定する必要はないのかなぁという気もします。彼は、限りなく「ホラ吹き」に近い意味での「山師」だった。別にそれでも良い気がする。
ただ、かれはホラ吹きだったけど、イカサマ師じゃなかったのかな、という印象は持ちます。他人をだますつもりは毛頭なくて、むしろ本人が成功する気満々だった。ただ失敗が多かっただけで(笑)。
偉人としてはカッコつかないけど、そういう人物としての平賀源内になら、私は愛着を持てるかも知れない。憎めないじゃん、なんだかんだいってさw
けどそんな源内も、晩年は事業失敗で資金繰りに苦しんで、最後は人を殺傷して牢に入れられ、獄死するのでした。
なんだろう、伝記を読んでいて、たとえそれがどんなに悲劇的な最後でも、この源内の最期ほど、妙に悲しくなった事はなかったなぁ。ちょっと泣きそうになってしまった。
私にとって、彼の生涯にそれだけ没入して、親近感をもって読んでいたのかも知れません。
どうせ私も口だけになるだろうけど(笑)、いつか機会があったら、源内の生涯を面白おかしい伝記小説に仕立てたり、してみたいなぁ。そんな事を思ったり。
まあ、きっと実現しませんけどね。私も源内と同じくらい、移り気だから。