機動戦士ガンダムAGE 第16話「馬小屋のガンダム」

     ▼あらすじ


 アンバットの激戦から25年。フリット・アスノの息子アセム・アスノはコロニー・トルディアで学園生活を送っていた。17歳の誕生日、父フリットは息子へAGEデバイスを託す。
 しかしそれから間もなく、ヴェイガンのMSがトルディアを襲撃する。アセムは父が馬小屋に隠していた伝説のMSガンダムを起動して応戦、辛くも撃退するのだった。



      ▼見どころ


   ▽アセム編が下敷きにしているもの


 今回から、ついにアセム編の解説に入っていきます。
 世間での作品評価が厳しかったガンダムAGEにおいて、相対的に最も人気があるのがこの第二世代、アセム・アスノを主人公にしたパートでした。それと同時に、親子二世代分の物語の厚みが加わる事で、具体的にストーリーを読み解いていく上でも格段に面白さが増してくるパートでもあります。
 そんなわけで、張り切っていきましょう。



 まずは、このアセム編の全体が下敷きにしているものをある程度はっきりさせておきましょう。
 フリット編が、ガンダム以前から初代ガンダムまでを念頭に置いていたとするなら、アセム編はZガンダムから、大体ガンダムX∀ガンダム辺りまでのテーマを扱っていると筆者は大まかに見なしています。
 特に、ガンダムAGE−1とフリット・アスノが初代ガンダムのカラーを出していたのに対して、ガンダムAGE−2とアセム・アスノZガンダムの設定を意識したキャラクターになっていると、とりあえず考えて良さそうです。



 アセムは高校でモビルスーツ部に所属・活躍していますが、



 カミーユ・ビダンもプチモビの大会で活躍している人物でした。



 また、本編で登場するのはしばらく後ですが、ガンダムAGE−2はストライダー・フォームと呼ばれるMA形態へと変形する機体であり、無論の事これはZガンダムを意識した設定だと思われます。
 ただし、これ以降の機体もそうなのですが、ガンダムのデザインは単一の過去作品のデザインだけを参考にしてはいないように思えます。



 具体的には、AGE−2ストライダーフォームで前面に機首と一体化した砲門が来るこのデザインは、



 どちらかというとWガンダムのバード・モードを思わせます。
 歴代のガンダムを多く物語に取り込んでいこうと考えた時に、個別に1機ずつのオマージュをしていたのでは間に合わないという事でしょう。必ず、複数のイメージの組み合わせや、ダブルイメージを仕込んでくるのがガンダムAGEの妙に込み入ったオマージュ戦略です。


 従って、こうした重層的な作者の伏線をどこまで踏み入って特定していけるか、読解は慎重に進めていきたいと思います。
 それでは、物語本編。



      ▽出オチ


 さて、冒頭はコールドスリープから目覚めるゼハートたちです。野郎のサービスシーンが入るのは、まぁ昨今の風潮の中でガンダムファンやってれば、もう慣れましたってなもんなので別にどうという事もないのですが。問題は次のシーンでして。



 実にオリエント気分あふれるBathRoomですね?
 ていうか壁面に富士山とかまるきり銭湯じゃないですかーやだー!


 はてさて、イゼルカント様のEDENイメージに、日本的FUJIYAMAが適っていたということなのかどうか(笑)。
 とはいえこれも、困ったことに過去のガンダム作品へのオマージュなのですよね。お若い方にはおなじみかも知れません、そう、



 アークエンジェル天使湯だよ
 ご丁寧に頭の上にタオル乗っけるジャパニーズ風呂作法も完全再現だった。
(余談ですが、頭にタオルを乗っけるのは、濡れたタオルが外気で冷たくなるため、湯にのぼせるのを防ぐ効能があるからなのですって)


 このあたり、平成になってからこっちガンダムの世界観もかなり何でもアリになってきたんだなぁ、と遠い目をさせられるところです。



      ▽フリット・アスノ 40歳


 新OPの後、地球連邦軍の司令となったフリットと、その腹心の部下フレデリック・アルグレアスとの会話が入ります。
 あの少年フリットがこのような大人になったのか、という辺りがまずもって面白いところなのですが。しかしそれに負けず劣らず、フリットに対するアルグレアスの反応が面白い。少し長くなりますが、会話を引用します。



「作戦の立案ですか。……相変わらず隙のない」
「わたしはヴェイガンの棲家をすべて見つけ出し、この宇宙から一掃する」
「この戦争、いつまで続くのでしょうか? 始まりの日『天使の落日』は、司令の生まれた日だと聞きました」
「40年か……。連邦政府は何度か和平の申し出をした。しかし、ヤツらはそれをはねつけた…!」
「ええ」
「ヤツらに人間らしい思考などない。和平などばかげている……!」
「司令はあくまでヴェイガン打倒にこだわられている」
「当然だ。ヤツらは人類の敵なのだからな」
柔軟な判断力をお持ちの司令が、その点だけはお譲りにならない。わたしの中の謎です
「わたしの考えが間違っているとでも言いたいのか?」
「いえ、そんなことは」
「君は、スライスレインズを主席で卒業したはずだな」
「はい……」
「ならば、参謀という立場が司令官への理解を深めねばならないことは、わかっているはずだが?」
「フフ……これは失礼しました。司令、次の休みにはご家族のところへ?」
「そのつもりだ……」


 アンバットでの決戦、コウモリ退治戦役から25年後のフリット・アスノの現在の立場と、周囲からの評価が短時間にまとめられている、AGEの中でもかなり出色の脚本だと個人的に思っています。
 このシーンから汲み取れる事は、次の二つです。
 フリット・アスノ連邦軍司令として、その能力も含め尊敬されていること。
 しかし彼の「ヴェイガン打倒」の信念は、最も近しい部下にも共感されていない事、です。


 また、この初登場のアルグレアスという若者が、いかにも気難しそうなフリットの怒気を涼やかに遣り過ごしてして見せるのも印象に残ります。
 個人的に、このアルグレアスという人は、歴代ガンダムにあまり登場した事のないタイプの人物で、とても面白いと感じています。今回はまだ顔出しの段階なので、いずれ彼にスポットが当たるタイミングで詳しく語ってみたいと思います。もしこれからアセム編以降をご覧になる方がいらっしゃいましたら、このアルグレアスという人物にも注意してみてください。


 さて、閑話休題


 上記の通りヴェイガンに対する強硬な思想を抱えているフリットですが、家庭を顧みない父親かというと、どうもそうではないようです。息子のアセムの名前を呟いて思いを馳せたりしてますし、



 息子の誕生日もちゃんと覚えています。
 アセムの妹、ユノア・アスノにも慕われているようですし、多忙でなかなか家に帰れない事を除けば、意外にも父親業を上出来にこなしているらしく見えるフリットです。
 もっとも、そういう所で多少欠点が見えていたりすれば、アセムの方も気が楽だったかもしれない、という面はあります。
 この辺り、父親がMSの事しか頭にない上に浮気の常習犯、母親もそれを嫌気して仕事に没頭といったありさまで、「ちゃんと親をやって欲しかった」と嘆いた『Zガンダム』のカミーユ・ビダンとどちらが幸福なのか、何とも言えないところがあります。カミーユの目から見れば、これ以上ないくらい恵まれた家庭に見えるでしょうけどね。



 そんなフリットは、17歳になった息子に、AGEデバイスを与えます。それはつまり、ガンダムを託したのと同義ということで。



「どんなときでも、肌身離さず持っているんだ」
 しかつめらしい表情で言うフリット。この辺り、かつてみすみすAGEデバイスを奪われた、



 この辺の体験が身に染みた助言に思えます(笑)。


 もしフリットが、プライベートでもウルフ・エニアクルあたりと交流があって、こういう時に横で「フリットもガキの時にAGEデバイスを年下の子供に奪われてな」、なんて茶々入れでもしてくれてれば、アセムの中の「完璧な父親」像もまた違ったのかも知れませんが。
 ……つーか、そこで大飯食らってるバルガスみたいなのが、そういう役目をするべきなんだけどね?



 相変わらずこの爺さんだけは、70〜80年代子供向けアニメのテンプレぶりがブレないキャラクターです。



 食べ盛りのティーンズより多く飯食ってるんじゃねーよ……。


 ともあれ、フリットとしては「アスノ家」の宿命を、息子に託す心境にもなったようです。
 ……などと言って、その託される側の息子の話をまだしていないんでしたね。



      ▽アセム・アスノ


 ガンダムAGEの、二世代目の主人公として、今回からフリットの息子、アセム・アスノが登場します。その初登場シーンですが、これは非常に、よくあるシーンになっています。つまり、




 三下のどうでもいいチンピラを噛ませ犬に、主人公が颯爽登場するという。
 この、チンピラを叩きのめす初登場シーンというのは、もはや世の中に星の数ほど存在し、ほとんどテンプレと化しています。はっきり言って、普通にこんな冒頭で物語を始めたら手抜き呼ばわりされても仕方ないレベルです。
 もし、新作ガンダム作品の冒頭が今日日こんな始まりだったら、私は「おいおい」とツッコミを入れざるを得ない所です。


 ただし、この場合は別です。ガンダムAGEという作品の性格を考慮した場合は。
 つまりですね、確かにこの「チンピラを叩きのめす冒頭シーン」はありきたりなシーンなのですが、では……こうしたパターンが定着したのは、時代にしてどれくらいの時期だったでしょうか? という事なのですよ。


 何度か書いたように、ガンダムAGEはフリット編がだいたい70年代くらいまで、アセム編が80〜90年代、キオ編以降が2000年代以降、といった時代の対応関係を作品中に盛り込んでいるのではないかと、当サイトでは予測しています。
 そして、上記のパターンがエンタメ作品の冒頭に頻繁に現れ定着するようになったのは、80年代からじゃないか? という事なのです。
 私はあまりこうした漫画・アニメの歴史に詳しくないので、確信をもって言っているわけではないのですが……たとえば、主人公の引き立て役的な雑魚キャラの代表格、モヒカン頭のチンピラが多数登場する『北斗の拳』の連載開始が1983年というのを見ると、そんなに予想として外れてないのかな、と思うわけです(笑)。


 つまり、この始まり方もまた、アセム編がフィーチャーしようとしている80〜90年代の空気を代弁すべく、あえて選ばれた「ありきたりな冒頭」だったように思えます。実際、時代的に適合しないフリット編、キオ編の冒頭はこのようになっていません。
フリット編冒頭は、トーストをくわえて学校へ向かうという、より起源の古そうなテンプレシーンで始まっていましたね)


 ちなみに、ガンダム史上でこの「どうでもいいチンピラを叩きのめして主人公初登場」パターンをやった作品を探すと、まぁ『Gガンダム』の対ミケロ戦も気分としては近いのですが、やはりそのものズバリをやらかしたのは、



ガンダムX』(1996年放送)のガロード君でしょう。


 さて、そのように颯爽登場したアセムですが、いざ物語が進み始めると、普通に学生生活を送る、わりと普通のスペックの人物です。
 MS開発に携わっているといっても、フリットのように軍の制式MSをはるかに凌駕する性能の機体を作ってしまうというようなスーパーマンぶりではなく、あくまで部活のレベルで取り組んでいるにすぎません。その開発も、順調にばかり進んでいるわけでもなく、試行錯誤を続けている状態です。


 この変化は、どちらかというと「よりリアルな初期設定が与えられた」という風に読むのが一番妥当なように思います。少年フリットがいきなりガンダムを(ほぼ独力で?)作ってしまったという現実感のない設定に比べて、アセムの初期能力はより受け入れやすい、「現実感のある」内容です。
 フリット編で何度か書いた、「リアリズムが移行している」という私の主張の根拠はこの辺りです。
 フリット編まで、いわゆるリアルロボット作品としてはいささか無理のある、破天荒な設定が散見されていましたが、このアセム編以降、徐々に既存ガンダムファンにも抵抗の少ない展開へと、移行しようとしているのではないかという事です。


 今後も余力があれば、こうした「リアリズムの移行」の痕跡を指摘していきたいと思います。


 その他、ゼハートやロマリーの顔見せがありますが、今回は割愛しまして。



      ▽“馬小屋のガンダム


 スパイとして潜入したゼハート・ガレットの手引きにより、ヴェイガンのMSがコロニー・トルディア内に侵攻を開始。そしてこれを迎撃すべく、再びガンダムが起動される事になります。


 ここで、ガンダムが馬小屋に隠されているというのは、過去作品にもあまり見られなかった面白い展開ですね。身近な生活空間にガンダムが隠れていた、という展開はガンダム作品ではあまりやられていなかったように思います。


 とはいえ、以前第11話の補足記事で書いたように、「救世主」ガンダムが「馬小屋」に隠されていたという風に読むと、実はけっこうアレな宗教ネタであるとも捉える事が出来るわけで。


 さらに。
 馬小屋の天井が開閉可能で、そこからガンダムが立ち上がるという、



 このシーンは、『Zガンダム』第二話、



 カミーユが初めてMSを動かしたこのシーンの暗喩でもあるわけです。
 ついでに言えば、セム編で最初にアセムが乗り込むのがAGE−2ではなく、AGE−1であるというのも、『Zガンダム』でカミーユがいきなりZガンダムに乗らず、しばらくガンダムMk−2という「初代ガンダムの延長線上にある機体」に乗っていた事をなぞっているのでしょう。先の話ですが、キオ・アスノの初戦闘がいきなり新出のAGE−3だった事と比較すると、この辺りの意図も明確になるかと思います。


 ざっとこのように、相変わらずガンダムAGEの各シーンに込められた意味は常に重層的で、手が込んでいます。特に私的な印象では、アセム編からこの傾向がさらに顕著になっていく気がするわけで。



 ともあれ、アセム・アスノの初戦闘となるわけですが。
 ビームサーベルを構えて敵に突撃するものの、かわされてそのまま地面に転がるという動きで、フリットの初陣に比べると勇み足な、無駄な動作が描かれています。
 しかしそこから、いきなりの、



 二刀流。
 初めてガンダムを動かした状態で、シンプルな動作をするのが精一杯かと思いきや、ここでいきなりトリッキーな二刀流戦法に出るところにアセムパイロットとしての資質の萌芽を見ても良いでしょう。それは、近くでこの戦いを眺めていたゼハートにも、「面白い戦い方」と言わしめる内容でした。
 さらに、2機目の敵MSは、撃破した1機目の腕を掴んで、敵のビームサーベルを利用して斬撃を食らわせるという、これもまた変則的な戦いぶりを見せました。
 フリットがどちらかといえばシンプルで切れ味のよい、スマートな戦い方をしていたとすれば、アセムの戦闘センスはそれとは逆のトリッキーでラフなスタイルのようです。
 こうした親子の戦闘センスの違いも、今後意識して見ていくと、物語の展開とリンクする形で面白く続きを見られると思います。


 そして今回はここまで。
 次回も学園を舞台にした物語になります。引き続き、色々な視点から読み解いていきたいと思います。



『機動戦士ガンダムAGE』各話解説目次