必殺技描写覚書。


 今度書く予定の作品が、まあ特殊能力者を大勢出して、そいつらそれぞれに二つ名をつけて、それでバトルメインで行く……というようなものを考えているわけです。
 二つ名ってのは、あれです、《赤い彗星》シャアとか、《人斬り抜刀斎》緋村剣心とか、《戯言遣いいーちゃんとか、《特攻野郎》Aチームとか、《冒険野郎》マクガイバーとか、まあそういうヤツです(ぇ


 で、その辺の構想を知り合いに話すと、こう言われるわけです。
「そこまでやるんなら、必殺技もやりたいよね」


 まあ……そうなるかなぁ、と思いつつ。
 やっぱりそこで、必殺技的な演出というか、そういうキメ技は欲しくなってくるだろうと思う。
 けれど。
 小説で、漫画や格闘ゲームのような「必殺技」をやるのは、かなり難しいのだ。


 以前、一度作品の中で、実際にキャラクターに必殺技を撃たせてみた事がある。
 ところが、全然インパクトがないのである。なぜかといえば、これは純然たるメディアの違いの問題。
 例えば。何でもいいけど、私になじみの作品ってことで『るろうに剣心』あたりの名を出そう。あれで登場人物が必殺技を使う時の表現を見てみるといい。恐らく、どの技でもこうなっているだろう。


①技名を使用キャラクターが大声で言う、もしくは背景に太字で大きく示される。


②大きなコマで、どんな性質のどんな技なのかが一目瞭然な一枚絵によって表現される。


 これは、漫画、アニメ、ゲームにおける「必殺技」表現にほとんどのケースで見られると思う。
 特に重要なのは②。この、大きく、一枚で完結しているビジュアルこそが、いわゆる「必殺技」の一番の肝なのである。
 小説では、表現の形態上、これができない。言葉で動きを描写していく必要上、どんな単純明快な技でも分解されてしまうのだ。


 小説で必殺技を使った場合の違和感を、試しに剣心の天翔龍閃でマンガに置き換えてたとえてみるとこうだ。


1コマ目。技の名前「天翔龍閃」がページ一番上に太字で示される。
2コマ目。小さく一歩目の踏み出し。
3コマ目。ページの左側に、反応して動こうとする敵。
4コマ目。小さく剣を抜き始める剣心の右手。
5コマ目。少し大きめに、剣閃と斬られる相手の図。
6コマ目。吹き飛ぶ相手の絵。
7コマ目。剣を振りぬいた剣心の図。
8コマ目。勝負あった二人の位置関係の俯瞰図。
9コマ目。そのまま勝利後の会話の応酬へ。


 見開きで実際に読んだ時、こんな必殺技描写がどの程度か、まあ想像していただければお分かりになられるかなと思う。一枚絵でインパクトを出している原作に比べ、なんだかだいぶ、みみっちい。
 要するに小説でキャラの動きを見せる時には、「こっちがこう動いて、こっちはこうなってて」と書くしかないわけなのだ。基本的には。
 ゆえに、漫画でやるような必殺技描写を、小説でそのままのノリでやろうとすると失敗する。
 そもそも文法が違うため、キャラがそのまま技名を叫ぶようなやり方自体、全体から浮いてしまって、なじませるのに一苦労という始末。


 もっと端的に説明すれば、漫画の必殺技描写が「KOF」シリーズや「メルティブラッド」の必殺技エフェクトに近いのに対して、小説の描写はせいぜい「バーチャファイター」シリーズ、「鉄拳」シリーズ、「ソウルキャリバー」シリーズのエフェクト程度がせいぜいだという事だ。後者の描写では、そもそもコマンド表を見ないと何という名前の技なのかわからないし、下手をすると通常攻撃なのか必殺技なのかの境目すら怪しかったりする。
 小説も同じで、普通に戦っている描写と、必殺技の描写との明確な違いがそもそも打ち出し辛い。



 ……で。
 まあ現在、どうしたもんかなぁと考えているわけだ。


 もっとも、まったく解決策を考えていなかったわけではない。この状況をどう打開すべきか、その解決の糸口がぼんやりと見えてきたような気はしている。
 ヒントになったのは、この日誌で再三名前を出している同人シューティングゲーム
 東方シリーズである。



 このシューティングゲームで一番独創的だった部分は、他でもないボスキャラの弾幕に名前をつけ、パッケージングした事にある。
 それまで、シューティングのボスは、ただ漫然と、種類の違う弾幕を次々に撃ってくるだけだった。
 だからプレイヤーがボスの攻撃について語ろうにも、「三面のボスの二段階目の攻撃」とか、そういう言い方をするしかなかった。


 東方は、この弾幕に名前をつけた。
 たとえば、敵ボスを「氷の妖精」にし、その攻撃に「ダイヤモンドブリザード」と名前をつけ、氷の粒に見立てた弾を撃つ。
 こうすることによって、それまで漫然と撃たれていた弾に性格を持たせる事ができ、ボスのキャラクター性や世界観まで広げる事に成功した。プレイヤーも、「チルノのアイシクルフォール取れねぇよ」とか、「フランのクランベリートラップ苦手なんだよなぁ」とか、そういう風にゲーム内容について語る事ができるようになった。


 この発想の転換は、「小説の必殺技描写」問題にとって非常に示唆的だと思う。
 つまりここで明示されているのは……必殺技描写の本質は、「パッケージングとネーミング」だという点。


 必殺技を撃つ前にも、当然キャラ同士は丁々発止、戦闘を行っている。必殺技はそれら通常の攻防とは一線を画され、インパクトある形でパッケージングされている事。その上で、そこにネーミングがなされている事。これが必殺技を描写するために必要な条件だ。
 つまり……必殺技の描写を、他の戦闘描写と決定的に区別する工夫が、必要なのである。


 さて、その工夫をどうしよう……という辺りで今の私は迷っているわけですが。
 どうしたもんかね。