夜は短し歩けよ乙女 (舞台訪問写真つき)
- 作者: 森見登美彦
- 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
- 発売日: 2008/12/25
- メディア: 文庫
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以前からわりと良い噂を聞いていた森見登美彦氏の本。何となく気になってたので読んでみた。
そして評判通り、これはわりと面白く。
とりあえずヒロインの「黒髪の乙女」の心情描写を読んで、「うむ、これはキュートだ」と(ぉ 一瞬、こんなやついないだろと思ったりもしたのですが、うちの勤務先のバイトの子とかを冷静に思い返してみると……案外いるのかも知れない(笑)。
何より素敵なのは、作中に何でもないことのように現れる、非現実というか、おとぎ話のような不思議な出来事。こういうのは、現実と非現実の割合というか、匙加減が難しいものなのですが、この作品はそこが絶妙でした。
非常にお気楽な物語なんですけども、そのゆったりとした空気に浸りながらページをめくっていくのがすごく楽しい一冊でした。
以下、収録短編ごとに。
「夜は短し歩けよ乙女」
“先輩”の活躍してないっぷりに憐憫の情を禁じえない(ぉ
そして乙女はお酒に強かった。
とにかく良いキャラしているのが樋口さん。いいなー、こういう妙な存在感を放つような男になりたいね(笑)。
別に何がどうという事もないのですが、夜の繁華街のように、その空気だけでぼんやりと何かすごく楽しい。まあ私は酒場にはあまり出入りしない男だから分かったような分からないようなですが、言ってみればお祭りの縁日みたいな楽しさですよね。そういう空気がずっと作中に流れてて、ページを繰るだけで気持ちが楽しい。
で、今後ひたすら暗躍する李白さん登場。3階建の電車という道具立てが良いですね。ていうか、この本全体が、道具立ての面白さに満ちてるわけですけども。偽電気ブランとか。
しかし最後まで読みとおしてから振り返ると、李白翁が他人のズボンをひっぺがしている図があまり思い浮かばないのであった(笑)。
「深海魚たち」
恐るべし古本市の神様。おお、私は決して悪辣な蒐集家などではありませんので、わがささやかな蔵書だけはお見逃しください、なむなむ。
しかしまぁ、古本市を舞台にこんな妙な話が書けるとは。作家というのは偉いものです。
とりあえず、欲しい本があるかどうかはともかく、その我慢大会にはちょっと参加してみたいかも(ぇ そんな辛党私。少なくともガビ書房の主よりは頑張れる自信があるぜ。
ともかく、樋口さんとヒロイン「私」との会話が好きでした。なんか何でも信じてしまいそうな、そういう乙女に変な事を吹き込むべきではないのですが、まあ樋口師匠なら許す(ぇ
読んでからしばらく、「なむなむ!」を心の口癖にしていたのでありました。
ともあれ、本を巡る話というのは、何か言い知れぬ執念が関わって来るわけで。李白翁が司るハードルートで奮戦する「先輩」と、そんなものどこ吹く風で表のソフトルートを渡り歩く乙女と。何という物語の格差社会でしょう(笑)。
「御都合主義者かく語りき」
これ、最高に楽しかったです。
文化祭のお祭り騒ぎの楽しさが、とにかく詰め込まれた様々な小道具や要素から伝わってくるのが何ともいえず良い。ゲリラ演劇っていう発想も楽しく、その妙な脚本も素敵。プリンセス・ダルマってどういうセンスだ(笑)。
韋駄天コタツといい、象の尻といい、この変ちくりんな道具立てに囲まれてわいわい騒ぐ様子がもう、楽しそうでたまらんのでした。とりあえず学園祭事務局に象の尻が突っ込んできたシーンで、噴き出すのをこらえるのに死ぬかと思ったよ。
またヒロインが、でっかい緋鯉のぬいぐるみを背負った状態で登場する時点で脱帽するしかないというか。もう、何だろうこの話、という感じ。
とにもかくにも、そういう変てこなものがあらん限り詰め込まれてて何が飛び出すか分からない、そんな感じの楽しい話でした。特に私が小難しくどうこう言うような話でもなくて(笑)、とにかく面白かった。
「魔風邪恋風邪」
李白さんすげぇ。大人物は風邪も大物なのか。
ここでも「ジュンパイロ」という謎のアイテムがそれらしく出てくるのが楽しいです。その謎のアイテムを持って李白翁の元へ見舞に行くヒロインの様子が、なんかもうRPGで最後のダンジョンに乗り込むようなノリになってて、可笑しくてしょうがないという。
連作短編の最後で、ここまでの3編の登場人物をお見舞いの形で巡っていく構成もそつがなくて良いし。本当によくできた話です。
最後のハッピーエンドも綺麗で良いですね。
とにかく、現代の町の、都市の風景の中に、ちょっとした幻想を織り込んで行って日常を楽しくしていく、その感覚が随所にちりばめられてて良いなぁと思いました。この作品が支持されてる理由の一つは多分そういうところなんだと思う。
これ、映画『パプリカ』作ったマッドハウスにアニメ映画化してほしいなぁとか思います。それで最高にキュートにまとめてくれれば……そういう作品があったら見てみたい。
さて、私はこの作品を、ちょうど京都旅行中に読んでいたのですよ。ですからはからずも、舞台訪問の叶ったところがいくつかありました。せっかくなので写真も載せておこうと思います。
先斗町の細道。独特の雰囲気があるところでした。大人3人が横に並んでかろうじて歩けるくらいの細道が、ずっと続いています。両側はずっと飲み屋。
木屋町。こちらはちょっと雑多な印象の通りでした。
第二話の舞台、糺の森。
実はこの写真を撮る前、紺色の浴衣を着た男性を見かけたんですよ。既に後姿で顔は見られなかったのですが、あまりの事に思わず写真を撮ろうとして。
けれど私、慌てて写真を撮ろうとするとフラッシュ部分を指で覆ってしまうクセがありまして(笑)。結局その写真は真っ暗なまま何も写らず、そうこうするうちに浴衣姿の男性はどこかへ消えてしまいました。
今ちょうど『四畳半神話体系』を読んでいますが、そちらの第一話では樋口氏は「下鴨神社の神さま」を名乗っているわけで。その参道で紺色の浴衣の男性を見かけたというのは……。
読者諸兄、私はそういうファンタジーはわりと信じる方なのです(笑)。
もう一枚、糺の森。古本市がたつのはこの辺でしょうかね。一度行ってみたいなぁ。
そんなわけで。ささやかな写真を添えて、感想を終えたいと思います。