機動戦士ガンダムAGE 第12話「反逆者たちの船出」

     ▼あらすじ


 ミンスリーからの出航をしようとするディーヴァだが、コロニーの外でストナー・グアバラン率いる艦隊に包囲されてしまう。ディーヴァを艦ごと捕えようとするグアバランと、逃れてUEの拠点へ出発したいグルーデックとの間で緊迫した駆け引きが展開される。
 しかしその最中、UEが襲来し、グアバランの艦隊が危機に陥る。隙を見て離脱するべきか、助けるべきか迷うグルーデックだが、即座にUEの撃退をフリットたちに命ずるのだった。


      ▼見どころ


   ▽グルーデックvsグアバラン


 この回は、最初から最後までほぼ、グルーデックとグアバランの知恵比べ、戦術合戦という事になります。途中からUEが介入してくるものの、この両者に焦点を絞った脚本展開は分かりやすく、フリット編の中でも比較的素直に楽しめる回に属します。
 まぁ、UE側が意志も顔も見えない存在なので、脚本上で便利に使っているという面もありますが。



 今回、わりと都合のいいタイミングで登場するUE


 このUE登場も、いってみればご都合主義なんですが。一応第1話で、フリットがUEの出現パターンを把握しているので、グルーデックがミンスリーへのUE出現タイミングを把握していた……とか、好意的に解釈する事は一応可能です。まぁ、そういう説明は作中でやっておけというお小言は前回書いたので繰り返しませんが。


 ともあれ、この回は小難しい事を抜きにして、グルーデックとグアバランの知恵比べを見れば十分な回になっています。拾うとすれば、細かなところになります。



 この回、ついに僕らのラーガン・ドレイスが初の撃墜スコアを叩き出します。しかも、連邦純正のジェノアスでのUE撃墜は人類初です。すげぇぜアニキ!
 そして同時に、ラーガンの劇中での発言は、この時点でのディーヴァクルーの認識を確認させてくれます。連邦軍は彼らにとって「同じ人間」ですが、



「UE相手なら思い切りやれる!」


 フリットには既にUEに人間が乗っている事が示唆されていますが、他のクルーにとっては未だにエイリアンである事が知られます。
 この辺の認識の差の描き方も、フリット編の中では比較的丁寧に押さえられているところです。


 あと、解説でも何でもありませんが、



 グアバランさん、任務の度に、業務用の箱単位でチョコバーを艦に運び込んでるに違いありません(笑)。
 アニメ版ではミンスリー内にまでグルーデック逮捕に乗り出していますが、小説版ではあまりの健啖ぶりのため、やたら太ましい的描写をされてしまっているのでした。うん、メタボリックシンドロームに気を付けてね!



      ▽ニュータイプとXラウンダー(2)


 この回、UEとの先端が開かれたのち、フリットは戦闘中に敵の動きを予測する能力を覚醒させ、自分でも驚く事になります。



 ユリンやデシルと同じ演出で。


 そしてその事を例によってグルーデックに報告。ここでようやく、「Xラウンダー」という言葉が劇中に登場する事になります。そして、第3話、第5話で予想された事がここで裏付けられます。少し長いですが、グルーデックの「Xラウンダー」の説明に耳を傾けてみましょう。



「Xラウンダーの力なのかもしれん」
「Xラウンダー?」
連邦軍で研究されていると聞いたことがある。人は、脳の中に特別な能力を司る領域、すなわち『X領域』を持っている。普通の人間には一生使われることのない特別な領域……そこが機能すれば、今まで感じ取れなかったものを感じることができるという。その領域を使えるようになった超感覚の持ち主、それがXラウンダーだ


 確認しましょう。
 ここでは、Xラウンダーとは「脳の中の特定領域をたまたま使えるようになった人たち」の事です。そして、「なぜ使えるようになったか」には特に定義や言及はありません。つまり、宇宙世紀ニュータイプのように、「人間が宇宙という環境に適応した」結果として使えるようになった能力だ、というわけではないようです
 従って、特に『逆襲のシャア』までの宇宙世紀ガンダムに顕著だった、ニュータイプが「人類の革新」だという意味付け、政治的意義も「Xラウンダー」には付随していません。


 単純な初代ガンダムへのオマージュであれば、「Xラウンダー」もまた人が宇宙に適応した結果であって、人類の革新、誤解なく分かり合える人々、「戦争などせずにすむ人類」という設定にしても良かったハズです。しかし、そうした意味付けはほとんどなされず、単純な異能力、超能力といった言及しかなされません。
 位置づけとしては、『ガンダムF91』以降、もはや「パイロット適性のある人」といった程度の意味にしか使われなくなった頃の「ニュータイプ」といった感じでしょうか。


 なぜ、Xラウンダーの設定をこのようにしたのでしょうか。それは、ガンダムの歴史を辿った時、もはやニュータイプ的な「共感」の能力が、人の革新たり得ないという結論が出ているからなのであり、「21世紀のガンダム」において最早そのようなモデルを提示する事がナンセンスになっているからなのです。ガンダムAGEは、このような「ガンダムのテーマの変遷」をかなり誠実に受け止めて作られています。
 が、ここで結論を急ぐことはしません。まだ『ガンダムAGE』の物語も長いので、少しずつ解き明かしていく事にしましょう。
 次にこのテーマについて書くのは、アセム編の中盤になってからです。お楽しみに。



『機動戦士ガンダムAGE』各話解説目次